エルスウェーニョの新着情報やお知らせ、
ブログをご覧ください。
エルスウェーニョの新着情報やお知らせ、
ブログをご覧ください。
横浜駅イタリアンレストラン・エルスウェーニョでのビッキーとユーリのグルメ探訪(十五)
ユーリはハタチだ。
成人式の今日は朝から髪と着付けで
たいへんだ。一生に一度の振袖の晴れ姿なので気合がはいっている。
式が終わって横浜駅に来た。
同級生のナオとキヨと三人で晴れ着姿で駅の商店街を歩く。
ユーリはボタン絵柄の振袖をきている。
身体の大きいナオは真っ赤な着地にバラの絵。
キヨはピンク色の着地に白い花柄の振袖だ。
駅のまわりは晴れ着の人がたくさんいて
花やかな午後だ。
その辺をぶらぶらしてから、ちょっと時間が早いけど駅近くのイタリアンレストラン・エルスウェーニョでお茶しよう
ということになった。電話してみると江野さんがいて
どうぞ来てくださいとのこと。さっそく三人でお店を訪れた。
「やあ、いらっしゃい。三人ともきれいですね」
「こんにちは」「こんにちは」「どうも」
江野も若くきれいな娘さんが三人も来てくれて顔がほころんだ。
三人は奥のテーブルでとりとめのない娘の会話に花が咲いている。
江野はコーヒーの豆を取り出した。
友人の下村コーヒーの自家焙煎だ。
あのおいしい水をやかんでわかしている。
コーヒーミルで豆を削って紙のフィルターにいれる。
お湯が沸いてから、ちょっと冷まして引き立てのコーヒーにお湯を少し注ぐ泡が立ったまましばしむらす。
それから三人分のお湯を泡の立つコーヒーの中心に注いでゆく。なるべく中心から外れないように注ぐ。
香りが立ち昇る。
ユーリとナオとキヨの三人のテーブルへポットごと持っていってカップに注ぐ。
「いい香り」
「おいしそう」
「ティファニーのカップよこれ。ステキ」
三人の娘はニコニコしながら
それぞれの言葉を交わしながらおいしそうにコーヒーを飲む
お茶菓子のクッキーもそえられている
若い娘さんたちの話は尽きない。
学校のこと、友人のこと、男性のこと、恋のこと、将来のこと、そのように午後のゆっくりとした時間が過ぎていった。
夕方になってビッキーがやってきた。
仕事を終わらせてから来たのだ。
三人の振袖娘たちに合流する。
いつものユーリと違って晴れ着のユーリはまぶしい。
ナオちゃんとキヨちゃんに紹介される。
ちょっと気恥ずかしい。
三人の美しく着飾った若い娘たちから見つめられてビッキーはうれしいけれど、少し落ち着かない気持ちだ。
さしさわりのない会話が続く。
江野さんがやってきた
「ビッキーくん、うらやましいね。
こんなきれいな女性にかこまれて」
「は、はい」
女の子たちは、白ワインとりんごジュースのサングリア、カシスオレンジ、ファジーネーブルをそれぞれたのみ、ビッキーは鎌倉ビールにする。
ピザマルゲリータがきた。
「ここのピザが最高ね」とユーリ。
「おいしい」「ほんと」とナオとキヨ。
ユーリたちの成人の日もこうして楽しく過ぎていった。
第十五話おわり
エルスウェーニョ(横浜駅イタリアンレストラン)マスターファンタジー
ビッキーとユーリのユルメ探訪(15)
ドドドドドドドドド
ケンタウルス ノートンはビッキーとユーリを乗せて走る。
走る。走る。
「さあ、着いたぞ。ここが地の果て
この先は千尋の谷。誰も渡れない。
わしがいっしょに来れるのはここまでだ。
あそこに少年が三人遊んでいるから
友達になるといい。さらばじゃ」
「さよなら。ノートンさん」
「さようなら、ケンタウルスさん、ありがとう」
崖のそばに少年が三人いる。
ビッキーとユーリが近づくと
一人の快活な少年が二人をニコニコと迎えてくれた。
あとの二人は無口でユーリをチラッと見て
恥ずかしくて下を向いてしまった。
「こんにちは」
「こんにちは」
「ビッキー君とユーリちゃん。ようこそ
ぼくはニーチェ、彼はドストエフスキー、
もう一人はムソルグスキー。
ぼくたち、それぞれ、哲学と詩と音楽を
勉強してたんだけど別々に勉強しても世界は変えられないと気が付いたんだ。
哲学、詩、音楽、これらはもともと同じもの。
もう一度力を合わせていっしょになって進まなくては。
それで三人集まって、それぞれの三本の糸を
より合わせて網をつくったんだ。
この千尋の谷に渡して向こうの世界、新しい世界へ、網を渡して、
谷の上を網渡りして遊んでいるところさ。」
「へえ、すごいなあ。こんな谷を渡るのか」
「こわあい」
「平気さ。まっすぐ前だけを見て、ほれこうやってバランスをとって渡るんだ。」
ニーチェ君は網の上をスタスタと歩いてみせた。
「ビッキー君は僕の後について僕と同じように渡ればいい。ユーリちゃんは女の子だから
ドストエフスキーとムソルグスキーの間にはいって、手をつないでもらって渡るといい。
さあ、いくよ。」
ドストエフスキーもムソルグスキーも顔を真っ赤にしてユーリとなかなか手をつなげない。
「ほおら、恥ずかしがってないでちゃんと手をつないで。ユーリちゃんを安全に向こうまでわたすんだぞ」
こうして、ニーチェ、ビッキー、ドストエフスキー、ユーリ、ムソルグスキーの
五人の子供たちは一本の網をゆっくりと渡って
向こうの世界、まだ見ぬ新世界へ
深い深い谷の上を渡っていった。
第十五話おわり
エルスウェーニョ(横浜駅イタリアンレストラン)マスターファンタジー
ビッキーとユーリのユルメ探訪(14)
ドドドドドドドドド
ビッキーとユーリを乗せてケンタウルス ノートンは走る。
「いろんな人が、オートバイに乗っているんだね」
「リチャードギアってステキ、カッコイイ」
そんな話をしていると
歌が聞こえてきた。
「どーこのだれかは知らないけれど…
疾風のように現れて、疾風のように去っていく……」
向こうから白いオートバイが走ってきた。
乗っているのは白い月光仮面。
陸王750手動ギアのRQで堂々と走る。
「へえ、すごおい」と
見送っていると、また白バイが走ってきた。
警官の姿をしているが三億円事件の犯人だ。
白バイはヤマハRI350.
もし車を運転している人がオートバイマニアだったなら、この白バイと警官がニセモノだと見破ったかもしれない。
RIは白バイに使われたことはなかった。
犯人はどこへ消えたかわからない。
また白バイが走ってきた。CB500だ。
後ろから白バイ隊が追いかけてくる。
白バイが白バイを追う。
「彼は違反追跡中にモデルの女の足を傷つけてしまう。
事件は政界がからんでボツになった。
女は夢を打ち壊されて沖縄へ姉と二人で帰る。
東名高速をスポーツカーが走る。
彼は制服のまま、白バイで女の車を追う。
警察隊が彼を追う。
オン・ザ・ロードを走る。走る。走る。
関門大橋で大規模な検問が彼を待ちかまえている。
一台のオートバイ乗りの750が検問を突破し
警察隊はそれを追う。彼はまぎれて九州へ渡る。
女に赦しを乞いたい一心で彼は走る………」
次にオートバイの一団がやってきた。
横浜ケンタウルスの面々だ。
先頭は飯田繁男氏。
横浜からオートバイを走らせて神戸よりひとっ走り。
神戸でおいしいコーヒーを飲んで
横浜までひとっ走りで帰ってくる。
その間、姿勢のわずかな崩れもない。
まさにケンタウロス族。
またオートバイの一団がやってきた。
ワイルド7のメンバーだ。白バイ機動隊として活躍する。
次に向こうから二台のナナハンが来た。
早川光君のCBと、あいつとララバイの研ちゃんのZⅡだ。
カワサキは当初は750RSと名付けていた。
ファンの間でゼッツーということばが流行し、
Zという名に変更したのだ。
次にまたオートバイが走ってきた。
目が三角でギンとした表情のグンだ。
後ろから刀の秀吉がシビ子を追う。
速い。速い。
グンはコーナーでガードレールを蹴飛ばしてオートバイを立て直す。
「やってもちっとも速くねえという秘密のわざだぜ」
グンと秀吉はイガミあい、ケンカしあうが
鈴鹿の耐久レースで組んで敵愾心を乗り越え、
友情を実らせる。
大散集の中でポップ吉村が言う。
「ほう、おもしろいやつがいる」
「あのノッポのカミカゼやろうですかい?」
とモリワキが聞く。
「ノッポも面白いが、わしが言ってるのはあのチビのほうよ。この何万人の人の中であのチビの考えていることがわかるのが、5人、いや3人か…」
ポップは続ける。
「二人のタイプの違う天才が組んどる。
こいつらが勝つとみた。」
勝つためにはノッポの瞬発力にかけるしかない。それを発揮させるためにはエンジンを温存しなくては。
前の車のスリップストリームに入ってエンジンの回転を抑えて走り、エンジンの負担を軽くする。グンはその音を聞いて秀吉の考えを推して知る。最後の最後にそれが功を奏して優勝する。やったー。
そのポップ吉村が走ってきた。
本田宗一郎と並んで走っている。
第一回鈴鹿耐久レースで無敵のホンダに
ヨシムラGSは土をつけた。
プライベートの個人が大企業に勝ったのだ。
次に一台のCB750が走ってきた。
乗っているのは東本昌平氏。
ドカティSSで始まるライドシリーズはずいぶん続いている。
次にドドドドドドドドというすばらしい音と共にWISAとXSIが並んで走ってきた。
片岡義男氏と柏秀樹氏だ。
この古典的バーチカルツインを70年代、80年代、日本のメーカーもジャーナリズムも忘却の彼方へ消し去ろうというかのごときであった。
その姿勢に不満を持ったファンも多い。
そして次に二台のオートバイが並んで走ってくる。
故中沖満さんと小関和夫氏だ。
中沖さんはヤマハYDSI小関さんはメグロZ7だ。
ビッキーとユーリとケンタウルスノートンににこにこと手を振る。
お二方とも曇りのない目でオートバイを見、愛し、
オートバイのすばらしさを世に伝えてくれている。
……………
ドドドドドドドドド
道はだんだんと続く。
ローマだ。
オードリーヘップバーンがグレゴリーペックのベスバの後ろに乗ってローマの街を走っている。
楽しそうだなあ。
ドドドドドドドドド
道はどんどん続く。
パリの街角だ。アメリがリノの赤いスクーターの後ろに乗ってパリの街を走っている。
幸せそうだなあ。
ジャン・ピエール・ジュネ監督はフェリーニと同じくオートバイマニアらしい。
ジュネ氏は、またショックちゃんも大好きと見える。
彼の、自分の目をつぶして携帯コンピューターカメラで世界を見る
一つ目族は、現在のスマホ族に重なる。
第十四話おわり
エルスウェーニョ(横浜駅イタリアンレストラン)マスターファンタジー
ビッキーとユーリのユルメ探訪(13)
ドドドドドドドドド
ビッキーとユーリを乗せてケンタウルス ノートンは走る。
「オートバイに乗っている人ってかっこいいね」
「若い時のゲハラってステキ。イケメンだわ」
こんな話をしていると
向こうからオートバイが走ってくる。
「おお、バーナード・ショウだ。
ビンセントⅤツインの上で堂々としている。
その後を追ってジデラサルティーノを駆けるのは、ムッソリーニ青年だ。血相を変えて追っている。
ムッソリーニ青年はイギリスのビンセントを打ち負かすことに全情熱を傾けている。
やがてそれはメッサー・シュミットにかわるのだが。」
次々とオートバイが走ってくる。
「あの先頭は若いマーロンブランド。
横はステーブマックイーンだ。トライアンフワイルドワンズのメンバーを引き連れて走っている。後ろにリチャードギアもいる。
お、後ろからものすごいスピードで追い越してきたのは最速のインディアンを走らせるアンソニーポピンズだ
ポンネビルで最高速度記録を打ち立てにゆくところか。」
淡々とオートバイが走ってくる。
「白バイは二台並んできた。モトグッチカリフォルニアだ。007ショーン・コネリーとダーティトリィことクリント・イーストウッドがポリス姿で乗っている。
その後ろからくるカワサキZ1000の白バイはジョンとパンチ」
「ハーレーが二台並んで走ってきた。ミッキーロークとマルボロマンの二人だ。アメリカ大陸を旅している。
もう一台ハーレーでジャンプしているのはターミネーターのアーノルド・シュワルツェネッガーの強靭な肉体。シュワちゃんは以前からホンダ750に乗ってたな」
次に一台のオートバイが走ってくる。
「おとうさーん、げんきー?」
一瞬にして走り去った。
「今のはわしの娘のノートン・マンクス。
気が強くて嫁のもらい手がないかと心配しておったが、マエストロと呼ばれるほどのすばらしい男、シェフ・デュークを射止めて、マン島で幸せな生涯を過ごしておる。
デュークは背も高く、イケメンで、ものごしも柔らかで才能があふれる。
このうえない婿殿だ。
デュークはマン島レーストラックで娘と大活躍した後、
日本のオートバイマニアに招待されて来日した。
まだオートバイもあまりないころの日本で
イギリスから来た自分を熱烈に歓迎してくれるたくさんのオーハイエンスージェンと(熱狂的なマニア)がいることに驚き、この国はきっとオートバイ産業と文化が発展するだろうと思う。モトクロス会場でみんなと走った時、伊東史郎の走りを見て、すばらしい走りだと印象を持つ。
本田工場を訪れて本田宗一郎社長に紹介しますといわれて、そこで作業着姿でオートバイをいじっていた人が宗一郎社長だったことに驚き、自国の社長室でふんぞり返っている人たちを思った…」
次にまた一台オートバイが走ってくる。
「おじいちゃーん、げんきー?」
一瞬にして走り去った。
「今のは孫娘のドカティだ
身内のひいき目かもしれんが、あれほど美しい娘はいない。
世界中の男どもが言い寄ってきおった。
まあ、あの娘も男が好きで恋多き生涯を送っておったがマイクザバイクと異名を持つ
すばらしい男、マイクヘイウルウッドにはいちころでまいった。
マイクは引退しておったが、ドカティを見て、青春の血が騒いだのだ。
二人で奇跡のマン島優勝。
華やかな女の生涯だの」
次に二台のオートバイが並んで来る。
モトグッチ・ビ・チリンドリに乗っているサミー・ミラー氏だ。
もう80を越えている。
隣はアラン・カスタード氏、ドカティイモラを走らせている。
二人はにこにことビッキーとユーリとケンタウルスノートンに手を振る。
お二方ともくもりのない目でオートバイを見、愛し、オートバイのすばらしさを世に伝えていくれている。
第十三話おわり
エルスウェーニョ(横浜駅イタリアンレストラン)マスターファンタジー
ビッキーとユーリのユルメ探訪(12)
ドドドドドドドドド
ケンタウルス ノートンは走る。
ビッキーとユーリを乗せて。
道は一本道。
向こうから二台のオートバイと車が一台来る。
ビュッとすれ違いざまに手を振った。
お互いに振り返って後姿を追う。
今のはホンダCB750と500.
乗っていたのはポールと西。車はダンサーの女だ。
西は日本からヨーロッパ耐久レースに参戦する。
スポンサーの金持ちの娘、小川ローサといっしょだ。
レースで敗れて、恋人にも捨てられて
失意のうちにオートバイに乗って日本を目指す。
彼に残されたものはオートバイ一台のみだ。
ヨーロッパを走る。
街のカフェで休んでいると、
店の前に750㏄が止まっていて男がおりてきた。
男は西の500をポンとたたいて、店に入ってきて西の隣にすわる。
「オートバイが好きか?」と西が聞く。
「たまらなく好きだ」ポールが答える。
「おれもだ」と西。
「君のか?あれは」とポールは外に顔を向ける。
二人は道連れになった。
ポールはチベットの理想郷を目指していた。
イスタンブールで
車で一人の女をひょんなことで助け、
三人道連れになる。
女はアラブの富豪のもとへ嫁に行く途中だ。
オートバイ二台と車が走る。
周りは砂漠だ。
道は一本道。
三人の他にはいない。
ドノバンの歌が聞こえる。
走る。走る。
くる日もくる日も走る。
ある日三人は、泉に休んでいる。
ポールと西は水浴びして寝ている。
女は思う。
「神さま。私、もう二か月も男に抱かれていません。私は健康な女よ。
私はどっちもすきなんだけど…」
女は小石を二人に投げ
泉に入っていゆく。
女の気持ちを察したポールと西は
オートバイで決着をつけようということになった。
西は元レーサーだ。
ポールは「おれはラフに強い」という。
「バカいえ」と西。
750と500は競争だ。
速い。
砂漠の道と二台のオートバイが疾走する。
走ってきた二人を女は待ちかまえて
ビンタをくらわす。
「バカにしないで!」
女心はよくわからない。
それから女は一人で車で旅出つ。
ポールと西の
二台はアラビアを走る。
ある街でポールと西は呼び止められて
街の男に連れてゆかれる。
そこにはボロボロに傷ついて放心状態の女が介抱されていた。
砂漠で水を飲んでいたところ
ベトヴェンにとがめられたのだ。
数人の男に囲まれて
女は銃を男たちに向けた。
銃はたたき落とされ女は暴行された。
その後、街の人たちに助けられたのだ。
しばらく女の回復を待って
三人でまた走り始める。
750に二人乗りだ。荷物もたくさん積んである。
三人で愛を確かめ合う。
走る。走る。
くる日のくる日も走る。
ある日、女は750から落ちて倒れた。
そして死ぬ。
砂漠のど真ん中に三人きりだ。
女は死んでしまった。
砂漠の中で木を組み上げ
女を横たえて火をつける。
燃え上がる火。
燃える夕日。
日は沈み、日は昇る。
そしてまたポールと西は走る。
失われた愛。
失われた夢。
それでも走る。
還らない時。
還らない青春。
それでも走る。
チベットへの岐路で
走りながら二人は別れる。
ポールは北へ、西は東へ。
そして一人で走る。
第十二話おわり