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エル・スウェーニョ(横浜駅ジャズ&イタリアンレストラン) マスター小説 第十二話 おじいさんとキツネ2015.12.28

マスター小説 第十二話 おじいさんとキツネ
 
おじいさんは森に住んでいました。
白い髪、白い髭。
森の奥の小さな小屋に一人で住んでいます。
別になんといってすることはありません。
森の中で寝て起きて、また寝る毎日です。
友だちは太陽、空、雲、月、星・・・・
森の草や木、虫や動物たち。
ある時、小屋の庭にニワトリがやってきて、卵を生みました。
二羽だったのがだんだん増えて十羽になりました。
毎朝、コケコッコーと鳴いて、卵を生みます。
おじいさんは毎日一つづつ卵を食べることができます。
そうして暮らしていました。
ある晩、キツネがやってきて、ニワトリを一羽くわえてゆきました。
毎晩一羽ずつくわえてゆきます。
ニワトリはだんだん減っていきます。
二羽だけ残りました。
キツネはもう来ませんでした。
ニワトリは卵を生み、だんだん増えて、やがて十羽になりました。
おじいさんも来れて卵を食べられます。
すると、またキツネがやってきて、一羽ずつくわえてゆきます。
キツネはニワトリをくわえてゆくとき、いつもおじいさんが、自分を見ているのに気がついていました。
いちばんはじめから見られているのです。
いつおこられるかと、ヒヤヒヤ、ドキドキしていました。
でも、なにも言われません。
三日目の晩、ニワトリをくわえたキツネは、後ろからのおじいさんの視線にヒヤ汗をびっしょりかき、いたたまれなくなって、ニワトリをはなしました。
そして、おじいさんを見ました。
でも恥ずかしくて、まともに見ることができません。
おじいさんの前でうつむいて、キツネはこう言いました。
「どうして、おこらないんですか?」
「なに、ニワトリはわしのもんじゃない。神さまのもんじゃ。
お前も必要じゃろう。
それに、お前はわかっておる。
ちゃんと二羽残しておいておる。
取り尽くしてはいかん。残しておかんと。」
キツネは少し安心して、おじいさんをまともに見ることができました。
「おじいさんは、ここでなにをなさっているんで?」
「別になんにも。おまえと同じじゃ。ただ生きているだけじゃ。
いや、生かされているだけじゃ。」
キツネは帰り道、いろいろ考えました。
「生きるとは?」
でも頭がよくないので、よくわかりません。
月日がたちました。
おじいさんの小屋のニワトリは、二十羽になりました。
にぎやかです。おじいさんも卵を食べられます。
ある夜、キツネが訪ねてきました。
奥さんと子供たちもいっしょです。
奥さんはおじいさんの前で、手をついて頭を下げ、
「いつも主人がお世話になっております。これ、つまらないものですが」
といって、おみやげをさしだしました。
「これはこれは、ごていねいに。
ほう、マツタケですな。遠慮なくいただきます。」
と、おじいさん。
子供たちは庭で駆け回って遊んでいます。
楽しい夜の語らいの時もすぎ、
「それでは、そろそろおいとまします」
キツネの家族に、おじいさんはおみやげにニワトリを一羽持たせます。
「子供たちに食べさせてやれ。」
そうしてキツネたちはたまに、山のおみやげを持っておじいさんを訪ねて来てくれ、おじいさんはおみやげにニワトリを持たせます。
そのようにして暮らしてゆきました。
ニワトリは二十羽を下ることはありませんでした。
 
(第十二話 おじいさんとキツネ おわり)

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