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マスター小説 第十二話 おじいさんとキツネ
おじいさんは森に住んでいました。
白い髪、白い髭。
森の奥の小さな小屋に一人で住んでいます。
別になんといってすることはありません。
森の中で寝て起きて、また寝る毎日です。
友だちは太陽、空、雲、月、星・・・・
森の草や木、虫や動物たち。
ある時、小屋の庭にニワトリがやってきて、卵を生みました。
二羽だったのがだんだん増えて十羽になりました。
毎朝、コケコッコーと鳴いて、卵を生みます。
おじいさんは毎日一つづつ卵を食べることができます。
そうして暮らしていました。
ある晩、キツネがやってきて、ニワトリを一羽くわえてゆきました。
毎晩一羽ずつくわえてゆきます。
ニワトリはだんだん減っていきます。
二羽だけ残りました。
キツネはもう来ませんでした。
ニワトリは卵を生み、だんだん増えて、やがて十羽になりました。
おじいさんも来れて卵を食べられます。
すると、またキツネがやってきて、一羽ずつくわえてゆきます。
キツネはニワトリをくわえてゆくとき、いつもおじいさんが、自分を見ているのに気がついていました。
いちばんはじめから見られているのです。
いつおこられるかと、ヒヤヒヤ、ドキドキしていました。
でも、なにも言われません。
三日目の晩、ニワトリをくわえたキツネは、後ろからのおじいさんの視線にヒヤ汗をびっしょりかき、いたたまれなくなって、ニワトリをはなしました。
そして、おじいさんを見ました。
でも恥ずかしくて、まともに見ることができません。
おじいさんの前でうつむいて、キツネはこう言いました。
「どうして、おこらないんですか?」
「なに、ニワトリはわしのもんじゃない。神さまのもんじゃ。
お前も必要じゃろう。
それに、お前はわかっておる。
ちゃんと二羽残しておいておる。
取り尽くしてはいかん。残しておかんと。」
キツネは少し安心して、おじいさんをまともに見ることができました。
「おじいさんは、ここでなにをなさっているんで?」
「別になんにも。おまえと同じじゃ。ただ生きているだけじゃ。
いや、生かされているだけじゃ。」
キツネは帰り道、いろいろ考えました。
「生きるとは?」
でも頭がよくないので、よくわかりません。
月日がたちました。
おじいさんの小屋のニワトリは、二十羽になりました。
にぎやかです。おじいさんも卵を食べられます。
ある夜、キツネが訪ねてきました。
奥さんと子供たちもいっしょです。
奥さんはおじいさんの前で、手をついて頭を下げ、
「いつも主人がお世話になっております。これ、つまらないものですが」
といって、おみやげをさしだしました。
「これはこれは、ごていねいに。
ほう、マツタケですな。遠慮なくいただきます。」
と、おじいさん。
子供たちは庭で駆け回って遊んでいます。
楽しい夜の語らいの時もすぎ、
「それでは、そろそろおいとまします」
キツネの家族に、おじいさんはおみやげにニワトリを一羽持たせます。
「子供たちに食べさせてやれ。」
そうしてキツネたちはたまに、山のおみやげを持っておじいさんを訪ねて来てくれ、おじいさんはおみやげにニワトリを持たせます。
そのようにして暮らしてゆきました。
ニワトリは二十羽を下ることはありませんでした。
(第十二話 おじいさんとキツネ おわり)