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エル・スウェーニョ(横浜駅ジャズ&イタリアンレストラン) マスター小説 第十一話 あの日のビッキー2015.12.28

マスター小説 第十一話 あの日のビッキー

今年ももうすぐ春。
ジュンは毎年このころビッキーたちが土の中から姿を現わすのを今か今かと待っている。
いつもは三月四日の啓蟄と呼ばれる日の満月の夜にいっせいに出てきて、水の中でバシャバシャ踊り回ってククククケケケケと歌いまくる。
春を楽しんでいるかのように見えるが、そうではなく、ヒキコちゃんたちよりもビッキーやガマオたちのほうが多いので、とり合いのケンカをしているのだ。
そして、あぶれた男が悲しみのうたを歌うのだ。
今年は満月は二月の末だった。
気の早い連中はもう卵を生んでいる。
三月になった。
・・・・・・・・・・・・
うううう………
おなかがいたい。
どうしたことだ。こんなことは初めてだ。
やっと目が覚めたのというのに
この苦痛。
おや、ガマオだ。
ガマオ、顔色が悪いな。
「よう、ビッキー。はらがいてえ。どうしようもねえ。おまえもかあ。」
ヒキコちゃんも苦しそうだ。
「おなかがイターイ。お医者さんに連れてってえ。イターイ。」
うううううう。
地面から針がおなかをつきさすようだ。
これは、ひょっとしてたいへんなことになるのかも。
たいへんなことが起こるかもしれない。
・・・・・・・・・・・・
ジュンはビッキーたちの様子を見ている。
何か変だ。
元気がない。
おや、ビッキーがぼくを見て鳴いている。
クワックワックワックワッ
(ジュン、たいへんだ。たいへんなことがおこるぞ)
なに、なにか言いたいようだがよくわかんない。
(ジュン、わかっているんだろうな。おまえたち科学というものでわかっているだろうな。もうすぐ大きな地震がくるぞ。クワックワックワックワッ)
ん、なんだ。なにがいいたい?
(ジュン、もうずぐくるぞ。気をつけろよ。ぼくたち、土の中に逃げるから。クワックワックワックワッ)
「おかあさん、ビッキーたちがなにか言ってるよ。」
「なに言ってるの。カエルがしゃべるわけないでしょ。手を洗ったの?」
それからビッキーたちの姿は消えた。
どこにもいない。
何か変だな。
静かな日が過ぎた。
・・・・・・・・・・・
そして、それは来た。
・・・・・・・・・・・
ビッキーたちが再び出てきたのは、四月のおわりだった。

(第十一話 あの日のビッキー おわり)

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