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マスター小説 第十三話 少年竜馬
四国の急峻な山と足摺、室戸の二つの岬に囲まれた土佐は、太平洋にのみ面している。
土佐の異骨相と言う。異なる人種ということだ。
海洋狩猟民族なのだ。
中国から渡ってきた長僧我部は、土佐に王国を築き、他国から恐れられ、中央からも一目置かれた。
土佐には都を想わせる地名が多い。
桂浜、鏡川、仁淀川、物部川、御免・・・・
中央からの流刑の地であったためか。
関ヶ原の戦いに際して、長僧我部は徳川がかつとみて、家康に密使を送ったが、大阪で捕えられた。
よって、土佐に山内一豊の支配となり、上士、御士の差別ができる。
竜馬が生まれた時、背中に毛が生えていたというのは本当だ。
背中のまん中に大きく長く黒いアザがあり、生えていたのはうぶ毛だった。
うぶ毛はやがて剛毛となる。全身にほくろが散りばめられていた。
物心つくようになって、竜馬は自分の体の異常に気づいた。
他の子供達と違う。体にアザやほくろがあって、背中に毛が生えている。
まわりの好奇な目が注がれる。
いじめられることも多かった。
仲間と裸で水遊びをする時が、苦難の時であった。
それでも、子供だからみんなといっしょに遊びたい。
アザをもち、ほくろだらけ、毛だらけとみんながはやしたてる時もあった。
反面、体も丈夫で、頭もよく、人柄も暖かい子供の竜馬は友だちに人気があった。
少年竜馬は、ぼうっとしている時が多かった。
夢想癖だ。
こせこせ目の前のこともやらず、ぼうっとして、遠くを見ている。
ぼうっとして、庭のビキ翁を見ている。
「ビキ翁、おんしゃあ、まっこと、みにくいのう。たまあるが、おらん背中も毛だらけがやき。」
ビキ翁は動かない。
一日中、じっとはいつくばっていて動かない。
竜馬少年を見ている。
大勢の子供たちが鏡川で水浴びをしている。
竜馬もその中にいる。
ひねくれた年上の子供が叫んだ。
「こんできそこない、あっちゃいけ。」
みんなが竜馬を見る。
気まずい空気が流れた。
「こらあ、つまらんこついうな!」
ガキ大将がどなった。
半平太だ。
「そこんアザ、こっちゃこい。おまん、アザじゃ毛じゃちゅうて気にせんでえいじゃいか。堂々としちょらえいがやき。」
半平太は竜馬を可かわいがった。
アゴ兄い、アゴ兄いと言って竜馬はついて回った。
半平太は三日月のようにアゴがとがっていた。
・・・・・・・・
そんなわりで竜馬は水練ができなかった。
剣と水練は武士のたしなみである。
そんな竜馬を乙女姉さんが気づかった。
乙女姉さんは夜、竜馬を連れて鏡川で泳ぎを教えた。
二人とも裸である。
子供の竜馬の目に、月明かりに浮かぶ乙女姉さんの白い肌は幻想的で美しかった。
竜馬はすぐに泳ぎは上達したが、裸の乙女姉さんといっしょにいたかったので、泳げないふりをしていた。
・・・・・・・・
竜馬はビキ翁をぼうっと見ている。
「おんじゃあ、一日中じっとしちゅうがや。いったい何ばあ考えちゅうが?まっこと年中こちゃんと寝ちゅうようじゃけんど。そっでも生きちゅうんは、天のおかげがやき。たまあるかこんこまい体で何年生きちゅうがやき。」
ビキ翁は動かない。
竜馬少年を見ている。
「ブツブツブツ、この子のアザは天のしるしじゃ。天はこの子になにをさせようと?
ブツブツブツ・・・・
暗い影にもみえる。
幸せになれぬか?
ブツブツブツ・・・・」
・・・・・・・・
(第十三話 竜馬少年 おわり)