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2016.06.18

第三章 ゼウスとプロメテウス

ゼウスは、もともと、父権制約的な社会を構成していた印欧語族の放蓄民の神であり、
ギリシャ人の侵入と共に、オリュンポスの支配者となってからは天を支配し雷や嵐を起こし雨を降らせるとされた。
主神といっても絶対的な支配権を持つのではなく、神々と人間の父として、家父長的な存在であったようである。ホメロスによると、ゼウスは「神々と人間の父」と称せられるが人間造りしたというような話はない。
あれだけ多彩な内容を持つギリシャ神話において、
「創世記」などのように人類の起源についての詳しい説明がないというのは、非常におかしいように思える点ではあるが、実際は、人間も神々も起源は同一とされていたし、
また先に述べたように、万物は大地から生まれ出るとする考え方が支配的だったから、とりたてて人類の起源を説明する必要がなかったのだろうと思われる。
しかしながら、ゼウスが人間の父といわれるのは、理由のないことではない。
というのは神話の中では、主にゼウスは、妻の目を盗んで多くの浮気や誘惑をするわけであるが、それらの子孫がそれぞれの民族を形成する場であり、ゼウスの血をひくとされる人々も実際に多かった。

ペロポネソス半島アルゴス王家の先祖はイナコスといい、これは同名の川の神格化である。
イナコスの娘がイオーで、すばらしい女性であったため、ゼウスは雲の上から見て一目惚れし、逃げるイオーを黒い雲にすっぽり包んで思い通りにしてしまった。
ヘラは、アルゴスの野を見下ろすと一箇所だけ黒い雲に覆われているのを不審に思い、またも夫ゼウスの隠れた所業とみてとって、雲を吹き払ったが、ゼウスは、それより先にヘラに気づいてイオーを美しい牝牛の姿に変えていた。
ヘラはすべてを知りつつ、この美しい牝牛が気に入ったから自分への贈り物にしてほしいと言い出して、困ったゼウスからイオーをとりあげていじめる。牝牛の姿をしたイオーは、ヘラによってアルゴスという百の目玉を持つ巨人に監視され、苦しい目にあわされていた。
それを見て心を痛めたゼウスは、息子のヘルメスを使わせてアルゴスを退治させにゆかせる。ヘルメスは、翼のついたサンダルで地上にまで降り立ち、羊飼いの姿でアルゴスに近づき、シューリンクスの笛と呼ばれる葦笛の美しい調べでやっと怪物を眠らせ、首を切り落とした。ヘラは憐れに思って、その百の目をとって孔雀の尾に取り付けたといわれる。
ヘラは、次に一匹のアブを送ってイオーを苦しめ、イオーはアブに追われて世界をさまよった。イオニア海(イオーの海)を泳ぎ、ボスポラス(牝牛の渡し)を渡って、最後にはナイル河までやってきた。そこでとうとうゼウスもヘラに詫びを入れて、イオーは人間の姿に戻ることができ、エジプトの女王となる。

イオーの四代ほど後の王べロスの二人の息子がアイギュプトスとダナオスであり、ダナオスの五十人の娘は、アイギュプスの五十人の息子に求婚されるが、それを嫌い、エジプトをのがれ、アルゴスへ亡命してくるという物語は、アイスキュロスの悲劇「救いを求める女神たち」によって扱われている。とにかく、ダナオスは入国を許され、後に、アルゴス王となる。ダナオスの孫アバスにアクリシュオスとプロイトスという双生児が生まれ、二人は争った後、アクリシオスが王位を継ぐ。アクリシオスにはダナエという美しい娘がいたが、自分の孫によって殺されるという神託を受けたので、娘が妊るのを防ぐために、ダナエを青銅がはりめぐらされている宝に閉じ込めておくが、またもゼウスがダナエに恋して、黄金の雨に身を変じて屋根から流れ入って、彼女と交わり、ペルセウスが生まれる。神託を恐れたアクリシオスは、娘と孫を木箱で海に流すが、セリフォス島の漁師がこれを救う。

さて、ペルセウスは、そこで勇敢な青年に成長するが、ダナエによこしまな恋心を持つセリフォス島の王は、邪魔なペルセウスに恐ろしい怪女メドゥーサの退治に使わす。メドゥーサは、ゴルゴンという三人姉妹の怪女の末の妹であり、髪の毛一本一本が蛇で、その恐ろしい顔を一目でも見た者は、ただちに石になってしまうという残忍な怪物で、大地の果てに住むといわれていた。ペルセウスは、途中、グライアイ(老婆達)という生まれた時から白髪の老婆で一つ目と一つ歯を三人共同で使う三人姉妹に、ゴルゴンらの居場所を尋ね、メドゥーサが居眠りをしているところを、アテナのくれた盾で、メドゥーサの姿を写しながら、ヘルメスのさずけてくれた鎌で首を断ち切って、すばやく首を持ってゴルゴン達のもとから逃げた。そうして、ペルセウスは、帰途、エチオピアの浜辺で、岩につながれている美しい娘、アンドロメダに会った。アンドロメダの話によると、彼女の母であり、エチオピアの女王のカシオペアが、自分の美しさを自慢して海のニュンフをばかにしたため、ニュンフは海の怪物を送って海岸を荒らし、その怪物の怒りを静めるために娘のアンドロメダがいけにえにされているところだった。アンドロメダが気に入ったペルセウスは、おそってきた怪物にメドゥーサの首をつきつけ、大きな岩にして退治して、アンドロメダを妻にめとり、彼女を連れてギリシャのあの島へ帰ってきた。そこで暴君らをやっつけ、ダナエは島の女王となり、ペルセウスは故国アルゴスへ帰るが、そこの競技に参加して円盤を投げたところ、偶然、見物人の一人に当たって殺してしまった。その見物人こそ、祖父のアクリシオスで、孫に殺されるという神託は実現してしまったのだ。ペルセウスは悲しんでアルゴスを去り、近くのミュケナイで王城を築いた。このミュケナイの王城は、考古学的証拠によっても、ミュケナイ時代として紀元前一千六百年頃から五世紀の間、ギリシャ第一の繁栄を誇っていた。

以上は、ゼウスの愛人イオーからペルセウスの冒険と、ミュケナイの建設までのペルセウス王家の系統をたどったものであるが、この王家には明らかにゼウスの血が流れているとされているのである。しかし、ミュケナイの政権は、ペルセウス王家からやがてアジアから来た実在の人物ペロプス(ペロポネソスという地名は彼に由来する)とその息子アトレウスに移り、ギリシャ軍総大将アガメムノンは、アトレウスの息子であり、強大な勢力を誇っていたと伝えられる。

第三章 前編 おわり

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