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第30話エルスウェーニョ 横浜駅ジャズ&イタリアンレストラン マスターファンタジービッキーとユーリのユルメ探訪2016.03.22

第30話エルスウェーニョ 横浜駅ジャズ&イタリアンレストラン マスターファンタジービッキーとユーリのユルメ探訪

                                   

                                        

 

ビッキーとユーリはオリュンポス神殿の大広間のダイニングテーブルで神々と一緒に食事を楽しんでいる。

3Dシアターの映像をここまで見て、部屋に不穏な空気が流れた。

気の強い、戦いの女神アテナがバーンとテーブルをたたき、立ちあがる。

「こんなことは許せない。ギリシャをバカにして。トロイアのものども、思い知らせてくれる」

アポロンが困った顔をして答える。トロイアの城はアポロンの神殿なのだ。

「姉さん、すみません。こんなことをしでかして。全く、困ったことをやらかしてくれたもんだ」

気の強いアテナはアポロンだけでなく父のゼウスをにらみつけ、

「元はといえば、お父様の愚行によるもの。お父様の気まぐれが引き起こしたんだわ」

ゼウスはしあさっての方を向いている。

アテナは今度は妹のアフロディテをにらみつけ、

「全く、あんたがキューピッドをしつけてないからこんなことになるのよ」

アテナはツカツカツカと立ち去った。

アフロディテは下を向いてキョロキョロしている。デュオニッソスがニヤニヤしている。

「さてと、困ったことになったな。トロイアへ行って準備しなくては」

とアポロンは立ち去る。ヘルメスとアルテミスは

「忙しくなるぞ、戦争の準備をしなければ」

と、それぞれ立ち去る。

アルテミスはギリシャ軍の出航に際して、風を吹かせるためにアガメムノンの娘を生け贄に求めた。

アルテミスはアポロンと双子だったので、気持ちとしてはトロイアにくみしていたのである。

父のゼウスとアフロディテも災いを引き起こした責任を感じてそれぞれの部屋へ引き上げる。

こうして大広間はビッキーとユーリとデュオニッソスの3人だけになった。

ビッキーとユーリは気まずくて下を向いていたがデュオニッソスがニコニコと笑っているので安心することができた。

3Dシアターはアテネの街を映し出す。商店街の向こうの中央広場の祭壇で、多くの人々の前でホメロスは歌う。

「ミューズの女神よ 詩の女神よ 我に歌わせたまえ ヘレネの後悔を ヘクトルの困惑を

トロイアへ逃げ帰ったパリスとヘレネは、初めは歓迎されたのだが、

王子の美しい花嫁が実はギリシャの王妃だとわかりパリスの父や母はショックで寝込んでしまった。

パリスの兄でトロイアいちの英雄ヘクトルがパリスを呼びつけて言う。

「パリス、お前はなんということをしでかしたのだ。自分のしたことがわかっているのか。

あの美しい花嫁はギリシャ王妃だというではないか。

これがどういうことを意味するかわかっているのか。

これからどういうことになるのかわかっているのか。」

パリスは答える。

「すみません、兄さん。こんなことになってしまって。

そんなつもりではなかったのですが、気がついたら手を繋いで一緒に帰ってきてしまっていたのです。」

ヘクトルが言う。

「とやかく言ってももう遅い。ギリシャは攻めてくるぞ。

普通の男どもなら俺が全部打ち負かしてやる。しかしあちらにはアキレウスがいる。

どれほど強いか。果たして勝てるか」

—–

部屋に一人、物思いに沈むヘレネ。

ここは異国の地。誰も知った人はいない。私はなぜここにいるの?なぜこうしてここにいるの?

故郷を捨て、家族を捨て、仲間たちを捨て、あの人についてきてしまった。

そして異国の地で一人。あの人は、優しいわ。他の人たちもそつなくやさしい。

けれども本心は困惑しているのね。それはそうでしょう。私はギリシャの王妃。夫のある身。

これからどんなことがおこるか。手にとるようにわかるわ。

多くの男たちが戦い、死ぬことになるわ。なんてことをしてしまったのでしょう。

私にはわからない。どうしてこんなことをしてしまったのか。

お母さん、どうしているかしら。一人残して来てしまった。

お父様には会ったことがない。うわさでは、ゼウスの神だとも言われる。

ほんとうかしら。信じられない。

仲間の友だちたちは大変でしょう。大変な騒ぎになっているでしょう。

メネラオス様、許してください。不実な妻をお恨みでしょう。許してください。

あの若者はやってくるだろうか。まだ若いとはいえ、一番の勇者。

アキレウスはこの地で戦えば死ぬことになることを予言されている、それでもやってくるだろうか。

会いたい……」

ホメロスはここまで歌って倒れて気を失った。全身全霊を出し尽くしたのだ。

広場の人々は感動に心を打たれている。

ビッキーとユーリとデュオニッソスも感極まっている。やがてデュオニッソスが口を開いた。

「ビッキー君、ユーリちゃん・お恥ずかしい家庭の内輪もめを見せてしまってごめんね。

あいさつがおくれたが私はデュオニッソス。バッカスとも呼ばれる。

この家では放蕩息子と思われている、いわば異端児だ。

だが君たち子供には縁がないが、ぶどうと酒を人間に授けたのは私だ。

また、やはり子供にはよくわからないだろうが

陶酔、恍惚、熱狂といったよくわからないものの神とも言われる。

それはまた感動というものにも通じる。ホメロスはすばらしい。彼は最初の詩人だ。

だが彼は盲目で字は書かない。ホメロスの歌を聞いた人が文字で書き残すだろう。

今、我々が聴いた歌は「レダと白鳥 あるいはヘレネイア」として書き残されることだろう。

ホメロスの歌はまだまだ続くことだろう。

アキレウスとヘクトルの二人の英雄の戦いの歌は「イリアス」として書き残されるであろう。

そしてみんな戦い、みんな死ぬ。

木馬の計によって、ついにはトロイアは滅ぼされ、アガメムノンやオデュッセウスたちのギリシャへの帰還の旅の歌は「オデッセイア」として書き残されるであろう。

人々に愛される最古の詩。ホメロスの三部作として後の世に残されることだろう。

だがしかし、私には見える。時が経ち、年月が過ぎ、一人の嫉妬深い神が現れ、

自分以外の神をその凶暴な力で打ち壊すことだろう。我々を忘却の彼方へ追いやってしまうだろう。

我々は失われることはない。だが、ホメロスが失われることにならなければよいが……」

 

第30話 終わり

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