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エルスウェーニョ(横浜駅イタリアンレストラン)マスターファンタジー ビッキーとユーリのユルメ探訪(1)2016.01.10

エルスウェーニョ(横浜駅イタリアンレストラン)マスターファンタジー
ビッキーとユーリのユルメ探訪(1)

今日は小学校は午前でおわり。
ビッキーとユーリはランドセルを背負って
江野のおじさんのお店に立ち寄った。
奥の部屋で焼きたてのカメリーナパンと
ミートスパゲッティと暖かいミルクでお昼ごはんだ。
おいしいいい…
お腹もいっぱいになって暖かい部屋で
二人はウトウトする。ソファーの背に並んで片寄せあってスヤスヤと眠りはじめた。
二人の頭の上には、あの絵がある。
黒鳥が誘う
夢の世界へ
………

駅だ。すごおい。蒸気機関車だ。
ボー、ボー、ビー、汽笛が響く。
すごおい。真黒な煙がモクモクモクモク
空に向かって真っすぐにモクモクモクとわきあがる。
まるで火山の爆発だ。白い煙がシューシューと。下から吹き出している。熱い蒸気だ。
あつそう。
大きな車輪を大きな棒がゆっくりと回す。
シュッシュッポッポッ
ビッキーとユーリは客車に座っている。
窓の外で江野のおじさんが見送る。
気を付けていっておいで。
おじさんはホームに残される。
列車はどんどん速くなる。
畑も飛ぶ、家も飛ぶ、すごおい。
鉄橋だ。あんなに下に川がある。
真黒になったトンネルだ。
ブウァー  早く窓を閉めて!
うわぁーん ススだらけになっちゃった。
広い野原を走る。
ボー ゴットン、ゴットン。
「ねぇ、ビッキー私たちどこへ行くの?」
「よくわからない。おじさんに終点まで乗ってゆくように言われたんだ。」
次はイーハトーブ、イーハトーブ 
車掌さんの声がながれる。
駅に停まったみたいだ。
少年が二人乗ってきた。
「やあ、こんにちは。ビッキー君にユーリちゃん。」
「こんにちは。」
「こんにちは。」
ジョバンニとカンパネルラだ。
四人の子供たちは客席で向かい合って
楽しそうにおしゃべりをはじめた。
「どこへいくの?」
ビッキーが二人に聞く。
「今日、又三郎君がカゼで学校休んじゃったんで給食のコッペパンを届けにゆくんだ。」
「先生も人使いがあらいよな。」とジョバンニ。
「でも又三郎君ちは、ケーキ屋さんだから
行ったらきっとケーキをごちそうになれるよ」
カンパネルラが続ける。
「わあ、いいなあ。私も行こうかな」
ユーリも目を輝かせる。
「私、ミルフィーユがいい」
「ぼくタルト、洋梨のタルト」
「やっぱりショコラだね」
「ティラミスもいいよ」
そんな話で盛り上がる。
銀河の駅に着いた。
ジョバンニとカンパネルラはここで降りる。

「さようなら。ビッキー君、ユーリちゃん
気をつけて行ってきてね」
「またね。又三郎君によろしくね。」
二人になった。列車はどんどん走る。
「楽しかったね。」
「いい男の子たちだわ。二人ともイケメンだし。」
列車はどんどん走る。
だんだん日が暮れてきた。
次は、夕鶴、夕鶴。
粗末な身なりの男が乘ってきた。
目が真っ赤だ。
ビッキーとユーリの目に来るなり、
窓のガラスをバタンと押し上げ
身の半分、窓から乗り出して泣きながらひとりごとをいう。
「つう、つう。
帰ってきてくれ。
つう、つう。おれが悪かった。ゆるしてくれ。」
夕やけの向こうの空に白い鳥が飛んでゆくのが見える。
「つう。おれがバカだった。
せっかくおまえが、おれにあんなに尽くしてくれたのに、おれは金の亡者どもにそそのかされて心を見失ってしまった。
「おまえの清い心を見失ったんだ。
ゆるしてくれ…」
ビッキーとユーリは顔を見合わせてことばもでない。
よひょうは泣きながら次の駅で降りていった。
「かわいそう!」
「うん」
ビッキーとユーリはことば少なに座って窓の外を見ている。
列車は草原を走る。
夕闇がせまってきた。
次はけんじゅう公園、けんじゅう公園…
男の人が一人、ドカドカと入ってきて、
ビッキーとユーリを見てニコッと笑ったかと思うと窓に向かって突進し
ガラスにガンと頭をぶつけた。
男の人は痛くもないといった。平気な顔をして。
窓ガラスを押し上げ、
窓から身を仰向けに乗り出して空を見ている。
じっとあお向けで動かない。
ビッキーとユーリは顔を見合わせてヒソヒソと話しする。
「どうしたんだろう
あぶないじゃないか」

男はずいぶん長い間そうして空をみていた。
やがて夜空のかなたから
「キシキシキシキシキシキシ」
と鋭い鳴き声が聞こえてきた。
男は「ポピョー、ポピョー、ポッポッポピョー」
と意味不明の叫びを上げて手足をバタバタさせた。
「ああ、つらい、つらい。
毎日毎日たくさんの虫たちが、ぼくに食べられる…
つらい、つらい、それがこんなにつらい。このまま星になれたら。」
よだかは真っすぐ上に向かって飛ぶ。
「キシキシキシキシキシキシ」
鋭い声が夜空に響く。
「ウォーン、ウォーン、ハアハア、ウォーン、ウォーン」
男は大きな声を上げて泣き出した。
そして泣きながらバタバタと起き上がり
バッと走り出したと思ったらバタンところんだ。
そのまま泣きながら起き上がりビッキーとユーリを見て
「ボ、ボ、ボ、ボク、ケ、ケ、ケ、ケンジ。
さ、さようなら。」
走って降りていった。ビッキーとユーリはポカンと見送っている。
「変な人」
「変わった人だ」
「でも今の人、顔はやさしかったわ」
「悪い人じゃない。きっと心がきれいすぎるんだね」
二人にとって今の人は強烈な印象だった。

列車は星空を走る。
回りは星がいっぱい。
次は奥の細道、奥の細道。
やせたおじさんが乗り込んできた。
「月日は百代の過客にして行きかう人も…ブツブツ…ブツブツ、日々旅にして旅をすみかとす…
おお、小さな旅人が二人、ビッキー君にユーリちゃんか。こんばんは。」
「こんばんは。芭蕉さん」
「これは良いところで会った。」
旅は道づれじゃ。しばらくごいっしょさせてもらうよ。
わしもまあ旅をしながら俳句、歌を読んで暮してきたが、
今回は幕府の依頼を受けて、
陸奥の国の探索と紀行文を書くことになった。
白河の関から北は古来別の国で中央政権の力の及ばぬ地域であった。
わしは昔伊賀の忍者もやっていたから隠密として陸奥の国をさぐることになったんじゃ。よりお金にもなる。」
「素性を知られないように
“古池や かわず飛び込む 水の音“
というわびさびの句を詠むとみんなが感激して、
この句がわしの代表作のようになったのも思惑どおりのこと。
おかげでわしは、わびさびの無害の唐人という事になっておる。
衣川に来たときには、しかしながら血が騒いでしょうがなかった。
“夏草や つわものどもが 夢のあと”
義経さんや弁慶の最期の場所だといわれておる。
まさにつわもの。
男は戦いよ。なあビッキー君」
「はあ…そうですね…」
「よいよい。まだこどもだからな。そのうちわかる。
男は度胸、女はあいきょうだ。ユーリちゃん」
「よくわかんない」
「よいよいユーリちゃんも美人になって男どもが群がりくることじゃろうて。
わしは戦いといって刃を振り回すわけではない
ことばが武器だ。
いかなることばをもって
いかなる表現、実現をして、
いかに人の心を打つか、突きさすか。

これがわしの戦いじゃ
古東達人はたくさんおる。
わしが師とあおぐ西行どのは
朝廷の高級官僚の職と
美しい妻、かわいい子供たちを投げ捨て
ことばの道へ出家した。
出家の日、泣きすがる子供を足で縁側から蹴り落として家を出たと伝えられる。
まさにつわもの。
西行どのの気概の片鱗でも持ちあわせたいものじゃ」
列車は星の中を走る。
ゴトゴト、ゴットン、ゴトゴト、ゴットン
銀河の夜空を走っているよう。
「おお、佐渡じゃ、真っ黒い佐渡が見える。」
“荒波や 佐渡によこたふ 天の河”
荒波は世の中の荒波じゃ。
佐渡はかの世阿弥どのが流され暮した島。
天の河は無数の星。
世阿弥のすばらしい能に打たれた無数の心。
わしもその一つじゃ。そして世阿弥に続く
ことばの星を目めざすこころじゃ…」

芭蕉さんは永々としゃべり続ける。
ビッキーとユーリは疲れてウトウト眠ってしまった。
それでも芭蕉さんはしゃべり続けている。
ウトウト、スー、スー、スー。
ゴトゴト、ゴットン、ゴトゴト、ゴットン
次は終点、海、海。
夜が明けていた。
芭蕉さんはもういなかった。
              第1話おわり
20 × 20

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