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エルスウェーニョ(横浜駅イタリアンレストラン)マスターファンタジー
ビッキーとユーリのユルメ探訪(2)
海の駅を降りるとそこは海だった。
「ビッキー君、ユーリちゃん
お待ちしてたわよ」
「やあ、ショックちゃん久しぶり。」
「これから海の旅へ船出よ。
さあ、私の背中に乗って乗って。」
ショックちゃんは大きい。
水かきのついた大きな長い脚で
太平洋の荒波の上をスイスイ泳ぐ
。速い。
たちまち太平洋のど真ん中まで来た。
青い空。
白い雲。
どこまでも青い海。
空の青と海の青が水平線で溶け合う。
空と海のほかに何もない。
と思いきや。
水平線の光に白いものが見えた。
ショックちゃんは速度を上げて追いついた。
おお、真っ白い鯨だ。
モービルディックだ。
背中に人が立っている。
片足だ。
「ガハハハハハ
モービルディックはわしの生涯の恋人。
やっと見つけてわしのものにしたぞ。
世界はわしのもの
ガハハハハハ。
おお、ビッキー君にユーリちゃん
こんなところで会うとはな。
これ、モービルディック、ちゃんと挨拶せんか。」
「こんにちは、ビッキー君にユーリちゃんにショックちゃん、
まだ人に慣れないもんで、ごめんなさいね。」
「エイハブ船長、かっこいいですね。
こんなすごいモービルディックに乗って
海を渡るなんて、まさに男の中の男。」
「ほんとステキ!」とユーリ。
「なになに君たちこそすごい。ショックちゃんに乗ってこんなところまでよく来てくれた。
どれ、モービルディック。ショックちゃんと競争してみるか。」
「いくわよ」「まけないわよ」
モービルディックとショックちゃんは波をけって飛ぶように泳ぐ。
速い、速い。どちらも速い。
「ガハハハハハ、これは愉快、愉快
壮快そのものだ。ガハハハハ。
わしたちは北へゆくからここらでお別れじゃ。さらばじゃ」
「ふうー、さすがモービルディックは速いわね。ついてゆくのがやっとだったわ。」
ショックちゃんは一息ついて
ビッキーとユーリと三人で東へ向かう。
太平洋三人きり。
青い空と青い海以外何もない。
と思いきや、
水平線の向こうに白いものが浮かんでいる。
近づくと白いボートだ。
そばによって二人で顔を寄せて中をのぞこうとした。
その瞬間、「ガオー」
大きな虎の顔が口を開けていた。
「ギャーたすけてえ」
「あれ、ビッキー君にユーリちゃんじゃないか。悪い悪い驚かせて。
ちょうどアクビをしていたところなんで」
「どうして海の上に虎が?」
「パイ君もいるよ。まだ出たばっかりで、あまり知られていないかも知れないけど
ぼくリチャードパーカー、パイ君といっしょに二人で漂流しているんだ。どうして虎と少年が二人でボートに乗って生きていられるのか、誰にもわからない。
けど二人で生きている。」
「こんにちはパイです。」
「こんにちは」
ユーリはパイ君に見とれている。
インドの端正な知的な顔だち
すらりとした体、やわらかいものごし
そして生命力。
なにものにも負けない気力。
これまでどれだけの困難をとりこんできただろう。
それも猛獣のリチャードパーカーの隣で。
どうして虎に食べられないで生きているのだろう。
でも生きている。
生命は生きる道を探す。
「なにかお手伝いする事はありますか?」
とビッキーが聞くと
「いいえ。なんとかやっていけると思います。」
とパイ君は答えた。
ビッキーとユーリはリチャードパーカーとパイ君ともっと親しくなって、
いろいろな話をしたかったのだが、ショックちゃんが
「もう行かなくちゃ」
と二人を促した。
「お別れね」
「ご無事で」
「さようなら。またね。」
リチャードパーカーとパイ君のボートを太平洋のど真ん中に置き去りにして
ショックちゃんは東へ泳いだ。
ユーリは不満である。
パイ君ともっといっしょにいたかったのに。
ショックちゃんが言ってきかせる。
「パイ君とリチャードパーカーは二人きりで精神の力と生命の力をぶつけ合う、微妙なバランスを保っているのよ。
リチャードパーカーはペットではないのよ。
お腹を空かせた猛獣なのよ。
その猛獣の野生の力をパイ君の気力とが
あのボートの上で平衡を保っている。奇跡だわね。
私たちが介入してそれがこわれたら
たちまちのうちにすべてがガラガラとこわれてしまう。
そっと見守るしかないのよ」
「無事生き延びられるかしら」
「そう願うしかない」
ビッキーとユーリを乗せて
ショックはスイスイ進んでゆく。
海の上を三人きり。
青い空と青い海しかない。
と思いきや
小舟に乗った老人が現れた
針糸をつかんでふんばっている。
糸の先に魚がいるのだ。
波が立って魚がジャンプした。
大きい。
すごい。
Fish, No one Deserve You!!
老人は叫んだ。
また叫んだ。
I Wish the boy were Here!!
魚はまたジャンプした。
老人はふんばる。力の限りふんばる。
「手伝いに行こう」
とビッキーが言うのを
またショックちゃんが制した。
「あの老人もまたあの魚と針り糸で、引き合い結ばれているのよ。
私たちが間に入れるものではないのよ。」
「がんばってください」
三人で心で言って
老人と魚を海に残して
海を進んで行った。
太平洋を三人きり
青い空と青い海しかない
と思いきや、
イカダが浮かんでいる。
求人の人が乗っている。
「オーイ、オーイ」
遭難した人たちかと思ったら違った。
みずからコンティキ号で漂流している
ヘイエルダールさんたちだ。
「ビッキー君にユーリちゃん、こんな海の上で会えるなんてうれしいね。
ぼくたち古代のインディオたちのように、
南米から海流に乗って太平洋の島々を渡り歩いているんだ。南太平洋の海の道
アジアと南米をイカダで行き来していたんだね。」
「へえ、そうなんですか。」
何日も何週間も何か月も海の上で暮らして
魚を食べて波の上で眠って暮らしていたんですね。ぼくたちの遠い祖先の人たちは。
そして太平洋を渡る。
壮大だなあ、そうやって生きていたんだ。」
「コンティキ号は静かに流れていった。
「さようなら。ご無事で」
「さようなら。元気でね」
ショックちゃんはビッキーとユーリを乗せてスイスイ海を泳いでゆく。
やがて陸地が見えてきた。
だんだん近づく。
海の旅も終わりが近づく。
「さあ、ついたわよ。ここでお別れね。
お別れはつらいけど、また会えるわ。
あなたたちの旅はまだまだ続く。
これからもいろんな人に会うのよ。
元気でいってきてね」
「ショックちゃんありがとう さようなら」
「さようなら ショックちゃん」
第二話おわり