純はぼんやりと思う。
何十年も前に、フランス、ボルド―の一地区、サンテミリオンの地でぶどうの実が赤く熟す。この地は先祖代々ワイン栽培の聖地だ。そのうえこの年はボトルワインに最適なきこうで、つまり日照が多く暑く、かつ秋が早い。ぶどうをあるいは植物を育てるのは自然の恵み。太陽の光と熱、雨と水、土壌の養分、ミネラル…それだけではない。青い空、白い雲、風のそよぎ、ふりかかる雨、鳥の声、蛙の声、蝉の声、コオロギの声、虫たちの接触、月の光、その満ち欠け、星のまたたき、そして人々の想い。
地主や農夫たちが共同でぶどうを摘む。きっとすばらしいワインができる期待を胸に。シャトーに移し、皮をもみ実をくだいて熟成させる。それを濾して樽に寝かせて待つ。それを濾してボトルに詰める。製法は秘伝だ。
そうしてできた一本がこのワインだ。
何十年の歳月を経て、多くの人々の手を経て、いま、東の果てのこの地にあり、述の手によって開けられ、注がれた。ワインは生きている。