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エルスウェーニョ 横浜駅ジャズアンドイタリアンレストラン マスターファンタジー ビッキー・ユーリのユルメ探訪 十八話2016.02.11

エルスウェーニョ 横浜駅ジャズアンドイタリアンレストラン
マスターファンタジー

ビッキー・ユーリのユルメ探訪 十八話

雲のように白く、
羽根ぶとんのように柔らかく、
電気毛布のように暖かく、
ケーキのおいしい香りに満ちた空飛ぶ円パンカメリーナは
ビッキーとユーリと役行者を乗せてフワフワと空を飛ぶ。
だんだん高い山が連なってきた。
向こうは真っ白な険しい山々が続いている。
ゆっくり近づくと平たんな広いところが見えてきた。
薄い水色の空気におおわれている。
家々があって人が住んでいるようだ。
こんな高い場所で、しかも険しい山に囲まれたところに寺院もある。
人々もいる。
知られることのない街。
桃源郷。
かつてヴェルヌ青年は、冒険の心に導かれてこの地に足を踏み入れた。
人々は静かに満たされて暮らしている。
その人々の暮らしにかいま触れる。
若く美しい女性に出会う。
二人はたちまちのうちに恋に落ち愛し合う。
女は120才だと言う。
耳を疑った。
こんなに若く美しい人が120才だと。
信じなかった。
二人は激情にかられ手に手をたずさえて下界の人間社会へ降りて来た。
そこで起こったことは、なんと恐ろしいこと。
女はみるみるうちに…
本当に120才だったのだ

かつて河口慧海青年は、仏の道に導かれてこの地に足を踏み入れた。
人々は仏様の生まれ変わり、
ダライ・ラマのもとで河口慧海はこの地の住民になりすまして
何年もこの地で暮らし、仏の道を生きる。
ダライ・ラマとも親しくなる。
そして仏教の聖典を得てそれを日本に持ち帰る。

映画「セブンイヤーズインチベット」でブラッドピットが演じた
実在のオーストリアの登山家ハインリヒ・ハラーは、
ドイツ登山隊のヒマラヤ遠征中に第二次世界大戦が勃発し、抑留されるが
友人と脱走し 冒険を重ね、この地に足を踏み入れる。
飢えて死にそうな二人をこの地の人が助ける。
「人助けに理由がいりますか?」
まだ少年のダライ・ラマと親しくなり、終戦までの7年をこの地ですごす。

かつてポーランドのラウィッツ陸軍中尉は第二次世界大戦中、無実のスパイ容疑でシベリアの収容所に入れられたが、脱走しシベリア、バイカル湖、モンゴル、ゴビ砂漠、チベット冒険の旅をし、この地に足を踏み入れる。
そしてヒマラヤの越える途中で二本足で立つ不思議な生き物に出会う。

カメリーナはビッキーとユーリと役行者を乗せてフワフワ飛ぶ。
まわりは雪と氷の世界だ。
でもカメリーナに乗ってると暖かい。
ひときわ高い山がある。
雪の上を一人の男が歩いている。
「おーい、雪男君!」
役行者が呼ぶ。
「おお、役上人。こちらはビッキー君とユーリちゃん、
役先生、ごぶさたしております。

お元気でなによりです。
私も先生にならって、ヨガ行者として山岳修行中です。
かつて先生は千日休まず山登りして修行された。
九日間飲まず食わず眠らず横にもならず読経の修業をなされた。
300年ほどそのような修行をして仙人になられた。
私もこの高い山々の雪の中を
裸足でふつうの衣服で歩いて修験道修行をしてまいりました。
おかげで寒さも飢えも薄い空気ものり超えることができました。
我々ヨガ行者の幾人かは、このヒマラヤの高い山々を修行の場として
また、住む場所として永い間雪の中で生きてきました。
地元の人々も我々のことを知っていてそっとしておいてくれました。
違う人たちが来たのは100年以上も前のことです。
ヨーロッパの物好きの人たちがこの地の高い山に登りたがって、
金や物や労力をつぎこんで
どんどんやってきてそして死にました。
普通の人々にとってこの地の自然は厳しすぎるのです。
彼らはこの地をヒマラヤと呼び、
いちばん高い山をエベレストと名付け、
高さも8848メートルと測りました。
何のために?
世界最高峰エベレストを征服する。
征服?
山頂に立つのが征服ですか?
我々はもう何人も何回も来ています。
我々の目的は神々の力を吹き込んでもらうため、
彼らの目的は名誉と威信でしょうか?
それでも最初に来たノートン君とマロニー君は勇敢でした。
また装備も少ない時代、彼らはこの山頂の直下まで酸素の補給なしに登ってきました。
マロニー君は勇気を奮って上へ進み、
頂上に足を乗せた瞬間、
強風に吹き飛ばされて谷底へ落ちました。
まるで太陽に近づきすぎたイカロスそのものです。
あれから四半世紀もたってから、
イギリス大遠征隊や酸素ボンベの助けを得て
ヒラリー君とテンジンが山頂に立ちました。
世界最高峰が征服されたということでしょうか。
ヨーロッパの先進国はヒマラヤの8000メートルの山頂の先陣を
国の威信をかけて争ったのでした。
そうして今は先進の防寒服と酸素ボンベをつけたたくさんの人たちが登ってきて、
山を汚してしまっています。
彼らの希望もわかりますが、山々は神々のもの、
科学技術ばかりに頼っていては、命を吹き込んでもらうことはできません。
私もいつか先生のように空を自由に飛べるようになるまで、
この雪の中で修業を続けるつもりです。」
「雪男君、おぬしならば業は達成させれるじゃろう。
いずれ雲のうえで会うことじゃろう。
がんばるがいい。」
「さよなら雪男さん、がんばってね。」
「さよなら。」
「さよなら。」
雪男はおおきな白い山の小さな点になっていった。

(ビッキーとユーリのユルメ探訪 十八話 おわり)

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