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エルスウェーニョ 横浜駅ジャズアンドイタリアンレストラン マスターファンタジー  ビッキーとユーリのユルメ探訪 (16話)2016.02.04

エルスウェーニョ 横浜駅ジャズアンドイタリアンレストラン マスターファンタジー  ビッキーとユーリのユルメ探訪 (16話)

深い深い谷を渡ったところは岩山だった。
白く冷たい月がかがやいている。
ビッキーとユーリが岩の道を登ってゆくと、
どこからともなく琴の音の調べと歌が聞こえてきた。
大きな岩の上で一人の男がたてごとを奏でながら切々と歌っている。
月に向かって切々と歌っている。
ビッキーもユーリも心を奪われて歌と音楽に聞き入った。
男は月に向かって歌う。
男の名はオルフェ。
かつて狩人だった弓の名人。
狩りの名人といわれていた。
森の中で鹿を射る。 百発百中だった。
オルフェが作った弓と弦は彼の指が弾く時、不思議な音をかもし出した。
飛ぶ矢も妙なる音を響かせた。
鹿は逃げることなくその音にうっとりとしてその場にたたずむのだ。
オルフェはいろいろな大きさの弓をつくり、いろいろな長さと太さの弦を張った。
それらをはじくといろいろな音が出た。
低く重い音。軽やかな高い音。
オルフェは一つの大きな弓に長さの違う弦をいくつも張ってそれらを弾いて遊んでいた。
不思議な感覚だった。
どこまでもどこまでも低く、
どこまでもどこまでも高く、
見たこともない世界が見えるようだった。
広く広く世界がみえる。 どこまでもどこまでも広く。
そうして遊んでいると、鹿やうさぎが寄ってきて、うっとりと音を聞く。
もう狩りをする必要はなくなった。
ライオンや狼たちも集まってきておとなしく音を聞いている。
森の木や草もみずみずしくそよぎ、岩さえも柔らかくなって聞いていた。
月が輝いていた。
月の女神アルテミスとミューズの女神たちがオルフェを見下ろしていた。
ミューズの一人ユリディスがアルテミスに願い出る。
「女神さま、あの男は音楽に目覚めようとしています。私を彼の元へ行かせてください。 彼に音楽を授けたいのです。」
純潔の女神アルテミスは答えた。
「よろしい、行くがよい。
 ただし、お前の身の純潔は守らなければならない。」
月の女神の許しを得て、ユリディスは地上に降り立ち、オルフェの前に来た。
「私はあなたの妻。  私への愛をその弦にこめて歌うのです。」
オルフェとユリディスは心から愛し合い、
オルフェは音楽というものに目覚めた。
こうして人類に音楽がもたらされた。
オルフェとユリディスは地上で音楽を奏で歌い、
森の木々や動物たちと楽しく幸せに暮らしていった。
月日が流れた。 ユリディスはオルフェを愛するあまり、
自分が人間の女になったような気がしてきた。
天上の世界のことも忘れてしまった。
そして月の女神の言いつけを忘れて、人間の女としてオルフェと愛し合ってしまった。
アルテミスは怒りユリディスを月へ連れもどした。
地上に残されたオルフェは悲しみに打ちひしがれた。
そして毎日毎日ユリディスへの愛の歌と、彼女を失った悲しみの歌を歌った。
世界は悲しみにおおわれた。
太陽は姿をみせず、鳥は鳴かず、沈黙と暗闇の世界になってしまった。
そのような地上のありさまを見て、月の女神アルテミスは心を痛め、
「わかりました。オルフェ、ユリディスをあなたにお返ししましょう。  
ただし、ユリディスが月から地上へ降りる間、あなたは目を上げてユリディスを見てはいけない。
 その間音楽を奏でつづけるのです。」
オルフェは喜びと期待に満ちて音楽を奏で続けた。
世界は喜びをとりもどしつつあった。
音楽は続く、続く、永遠と続く。
そしてオルフェはユリディスが近くに来た気配を感じた。
そして目を上げた。
しかしユリディスは
まだ足が地上に着いていなかったのだ。
ユリディスの姿が遠くなってゆく。
「ああ、オルフェ、もうすこしだったのに。  愛する人 さようなら」
永遠に失われた愛。
茫然とたたずむオルフェ。
「なんということ、なんというおろかな男。」
オルフェはそのままユリディスの後を追うように
岩から飛んだ。
ビッキーとユーリのユルメ探訪 第十六話おわり

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