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エルスウェーニョ(横浜駅イタリアンレストラン)マスターファンタジー
ビッキーとユーリのユルメ探訪(7)
ビッキーとユーリを乗せてケンタウルス ノートンはどんどん走る。
行く手に一頭の馬が見えた。
近づくとやせた老人を乗せて馬はとぼとぼ歩いていた。
「ロシナンテ、どうした。元気がないな。
こんにちは。ドン・キホーテさん。遍歴の騎士道の旅の途中ですね。」
「やあ、こんにちは。ケンタウルス ノートンさん
ビッキー君、ユーリちゃん。」
「こんにちは。」
「こんにちは。」
ケンタウルスノートンはロシナンテに並んで話しかける。
「よたよた歩いてみっともないぞ。しゃんとせんか!」
「す、すみません。足腰が弱いもんで」
「ロシナンテともあろうもんがどうした?
お前の名前は世に轟いておる。
アレキサンダーグレイトの愛馬ブセファロス、英雄アレキウスのクサントスとも並ぶ称されるほどの名だ。」
「ヒェー、そんな名馬、駿馬と同列にされたら困ります。」
「まあよい。おまえはおまえだ」
といって並んで歩く。
「ドンキのおじさん。この前おじさんのお店でおかし買ってもらったよ。」
とユーリが話しかける。
「なんと、わしの名のスーパーがあるとな?
喜んでいいやら嘆いていいやら。」
「キホーテさん、遍歴のお話を聞かせてください。」
とビッキーがお願いする。
「そうじゃのう。わしも長く遍歴を続けておる。
セルバンテスどのがわしを書いてから、
もうかれこれ五百年ほどたっておるわい。
もともとセルバンテスどのはたいして文学的野心などなく、
当時流行っていた騎士道物語に対して
風刺としてパロディとして暇つぶしに書いただけのことじゃった。
ところがわしの名が時代とともに高まるにつれ、彼自身も驚いているのであろう。
最近、墓の下から名乗りを上げてきた。
わしは見た目もよくなく、力もなく、金もなく、能力もない、とりえのない男じゃが、
現実というものは見ないで、思い込み、夢、理想というものだけを見て、それに突進して来たんじゃ。
そして悪をくじき、世を正す騎士の道を突き進んだ。
悪魔の風車と戦い、世の不正と戦い
その騎士の功績は思い姫のドルシネア姫にすべて捧げるのじゃ。
ドルシネア姫に会ったことはない。
会う必要もない。
わしの心の中にあって、わしの心の支えになってくれればよいのじゃ。
そのようにとりえのない男が頑張っているのを認めてくれて、
ツルゲーネフ先生がわしとハムレット君に賞をくれた。
ハムレット君は同級生だ。
ハムレット君はシェイクスピア王家の貴公子で
超イケメンで頭も良く運動神経も良く、
みんなのあこがれだった。
それに対してわしは貧乏人の子供で顔も頭も悪く、
落ちこぼれだったが、がんばりだけはあった。
ハムレット君はすべてを持っていたが
「To Be, or Not To Be」といって深刻に抱え込まなければならなかった。
わしは何も持っていなかった。
悩むことはなかった。突き進みさえすればよかったのだ。
だがわしも長年人間をやっとるとだんだん自分というものが見えてくる。
わしには能力というものがなかったのではないか?
いっしょうけんめい頑張っても何も得られなかった。
夢を見、理想を追い求めても、何も変わらない。
すべて無駄だったのではないか。
徒労に終わってしまった。
世のため、人のため、騎士道を進んだつもりだったが、
ただのピエロ、わらいものになっただけじゃ。
わしはただのバカだったのではないか…」
そこでドン・キホーテさんは言葉を詰まらせた。
「それは違うと思います」
ビッキーが言う。
「ぼくたち、みんなキホーテさんが大好きです。
あなたのことを笑いものにする人たちもいるとは思います。
でもその人たちは“どうせやってもムダだ”とか“ほれみろ、失敗しただろう”とかいって、
はじめからやろうとしない人たちです。
失敗するのがこわいんです。
でもその人たちも心の中では、
あなたのように理想を追い求めて突き進む姿にあこがれていると思います。」
ドン・キホーテはビッキーをじっと見た。
その目に涙が溢れていた。
ビッキーは続ける。
「今ではキホーテさんのことはみんなよく知っています。
ブロードウェイでは「ラマンチャの男」として大ヒットしています。
“見果てぬ夢”というすばらしい曲もよく歌われています。
みんな、あなたのことをすばらしい男だと思っています。」
キホーテの目からポロポロ涙がこぼれた。
第七話おわり