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エル・スウェーニョ(横浜駅ジャズ&イタリアンレストラン) マスター小説 第十四話 「ある日、竜馬は。」2015.12.28

マスター小説 第十四話 「ある日、竜馬は。」
 
秋山氏によると、品川宿の浮遊雲は、ある日ブラリと居酒屋へ入った。
この人は毎日遊んで暮らしている。
女の着物をきて、昼間から飲んでいる。
居酒屋の宴に数人の若者がにぎやかに飲んで気勢をあげている。
雲は隣のせいで一人でチビチビ、やっている。
「ワハハハハハ!日本の夜明けは近いぞ」
というような声が聞こえてくる。
雲は聞くとはなしに聞いている。
夜明けですかねぇ。勤皇の志士たちだろうに、どうも土佐のことばのようだ。
若者たちが出ていったあと、みると刀が置き忘れている。
雲はそれをとってみて、
「ほう、これはなかなかのもんだ。どれ、届けてあげよう」
と刀をかついで居酒屋を出た。
さっきの若者たちは、別れ別れに行ってしまったようで、その中の一人の男があき地で別の数人の男たちに囲まれていた。
男たちは刀を抜いて、その男の命をねらっている。
囲まれた男は、遠くを見る目つきで、
「やめちょけ。わし一人殺ったところで日本の大きな流れは変わらんぜよ」
佐暮派の男たちはジリジリせまってくる。
「どうしてもやるちゅうんなら」
といって、男は右手を腰に伸ばした。
ない。
刀がない。
しまった。
男はバッと逃げる。走る。走る。逃げる。逃げる。
俊足だ。
追手をまいて路地裏で、ふうーと息をつき、
「あぶないところだった」
と、一息ついたところへ
浮遊雲が来た。
「もしもし、お忘れものですよ」
と、刀を渡す。
「ありゃー、これはすまんこってす。」
と、男は破顔一気。
刀を腰にさし、
「わしは、ねらわれちょりますので失礼します」
と、頭を下げ、走り去る。
雲は、一人歩きながら思う。
「ねらわれている人が刀を忘れるもんかねぇ」
・・・・・・・・
竜馬はこういう男であった。
 
(第十四話 「ある日、竜馬は。」 おわり)

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