枯れた味わいという。熟成が進んでいい味が出てくることだがこのワインの味わいを表現することができない。最もすばらしい美味は愛の制御によって生まれる。最もすぐれた感覚が、それぞれの味の持ち味を引き出し、それを制御し、美しいハーモニィに創りあげてこそ美味が生まれる。
これは何千年物人類の遺産。
このワインもこのようなもので、今ここで我々はひとつのすばらしい遺産を邂逅することができたのだ。
ひとしきりワインを味わい、料理も味わって楽しいひとときをすごしていった。若い者同士の青春の語らいにも花が咲き会話も進んでいった。やがて将来、何をするかという話になって、まず高が口をきった。
「商社に就職して、世界中飛び回って活躍したい。何十年かして実力をつけて政治の世界に進み。地方活性化に力を尽くしたいんだ。」
すばらしい。やはり言うことが違うな。続いて述。
「ワインインポーターになって世界のワインを輸入するんだ。特にモロッコとアルジェリアのワインを日本に輸入して紹介したい。先々は自分のワイン会社をたちあげたい。」
さすが君ならできる。
「私は」
舞が身を乗り出して話し始める。
「ジャズピアニストになりたいの。ニューヨークのジャズクラブで演奏するのが夢。バークレーに留学するつもりよ。」
えーニューヨークに行っちゃうの?
「純、君は?」
と述が声をかける。
「えっ、ぼく?えーっと…わからない。わからないんだ。就職もしたくないし、仕事もあまりしたくない。詩や小説を書きたいと思っているけど、何を書いたらいいのかわからないんだ。それで食べてゆけるかどうかもわからないし…」
「そのうちわかるさ」
と高が助け舟を出してくれる。
「そうだな、そのうちわかるよ」
と述。
「あなたならきっとすてきな小説が書けるわ」
と舞。
夜も更けてきておひらきになった。
楽しい夜だったね。
帰りぎわ、舞がそっと純にささやいた。
「純、絵本ありがとう。とってもすてきだったわ。大好き」
みんなと別れて純は帰り道幸せな気分だった。
明るい月が輝いていた。
舞ちゃんが大好きと言ってくれたのは絵本のことかな。それとも…