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ワイン2015.11.15

地方の田舎から東京の大学へ来て一年、純はいまだに都会の生活になじめなかった。言葉の違いもさることながら、すべてのことにスピードと利便さを求められることについてゆけない気がした。彼はケイタイさえ持っていない若者だったので、都会の若い女性ともなじみがなく、孤独な日々を文字に親しんだり、ジャズを聞いたりしてすごしていた。

 

入学当時テニスサークルに入ったが、みんなのレベルについてゆけなくてすぐにやめてしまったのだが、そこで高と知り合った。

 

高はテニスの花形選手でみんなのまとめ役、信望の厚い好青年で純とは文学的な趣味で気が合って、よく二人で古典文学や歴史について語り明かした。

 

春、学園祭の日、純は高に連れられて、述の主催するワインパーティーに出かけた。述は天才の呼び声の高い切れもので、ワイン同好会を率いて有名だった。会場にはたくさんの人がいていろいろなワインを味わって楽しんでいたが、その中心に述と並んで舞がいた。舞はスラリとした髪の長い美人で、ワインの女王として会場の中心で、笑顔を振りまきみんなの注目の的だった。純は気おくれして見とれているだけだったが、彼女のほうから声をかけてくれた。

「こんにちは、ようこそ。私舞です。よろしくね。」

純はワインのことはとんど何も知らなくて、述や舞がみんなにいろいろ説明したり評価したりするのを、ウンウンなるほどと知ったようなふりをしてうなずいていた。

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