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横浜駅イタリアンレストラン・エルスウェーニョでのビッキーとユーリのグルメ探訪(7)
ユーリは小さい頃からバレエを習っていた。
踊りが大好きである。
今はフラメンコに夢中だ。
フラメンコはギターとカンテとよばれる歌を伴奏に踊る。
激しい動き、ほとばしる情熱。
そして美しさ。
ユーリは横浜駅イタリアンレストラン・エルスウェーニョでフラメンコのライブをやることがあると聞いて
ぜひとも見たいと思うと同時にいつかあのオークのフロアの舞台で踊りたいと思った。
「すてきだろうなあ。」ギターが鳴り響き、哀愁を帯びた歌が雰囲気を盛り上げる。照明が落ち、暗闇の中にスポットライトを浴びて浮かび上がる。
観客のまなざしが注がれる。
緊張の時間。
ギターの前奏が響く。
歌と踊りが始まる。曲は「ブレリア」いっきに動き出す。激しく激しく激しく。
速く速く速く。
美しく。
踊り出したら我を忘れる。
回りも見えない。
自分をを照らす光だけ。
遠くの方でギターと歌が聞こえる。
遠い世界から響いてくる。
体が勝手に動く。
何も考えない。
体は私じゃないみたい。
心も私じゃないみたい。
踊る踊る踊る……
「ユーリ、どうしたんだい。」
ビッキーの声でユーリは我に返った。
ああ、そうだった。ビッキーと二人で
横浜駅イタリアンレストラン・エルスウェーニョの奥の大部屋の席でワインを飲んでいるところだった。
ワインはイタリアのダンサンテ。
ボトルのラベルにダンサーの踊るシルエットが描かれている。
優雅な絵と優雅な味の赤ワインだ。
テーブルには超熟プロシュートの皿。
「ねえ、ビッキー。ここでフラメンコをやるんだって。」
「へえー。すてきだな。ぜひみたいもんだ。」
「私は踊りたい。」
「一生懸命練習しないと踊れないぞ。」
「そうだね。」
次の料理が運ばれてきた。
ポルチーニのクリームパスタだ。
秋になるとイタリア全土でポルチーニ茸の香りが広がる。えもいわれぬ、山の幸の香りと味。
デュラム・セモリナ粉を水で練って、冬は一日置く。
夏は半日だ。気温によって小麦粉の熟成と発酵の時間は変わる。手早くめん棒で板上に伸ばす。厚さは均一でなければならない。
大きな包丁で一定の長さ、幅に切る。
長さ、幅の均一さもさることながら、最も大事なのは切り口の鋭さであろう。包丁人の腕は切り口で発揮される。
切り口の状態によって麺が引き締まり、小麦粉の味を引き立て、食感がよくなる。
茹で上がった手打ち生パスタを
生クリームで温めたポルチーニ茸にからめて
塩、胡椒して大きめの深い皿に盛る
「いい香り、秋の香りね。」
とユーリはうれしそう。
ポルチーニと生クリームと生パスタの香りと味が溶けあう。
目の前でジャズの演奏が始まった。
今夜はめずらしくギターとバイオリン。
そして女性ボーカルだ。
ジャンゴ・ラインハルトのようなジプシーギターの音色が響く。バイオリンはステファン・グラッベリを思い起こさせる。
流浪の民族ジプシー。
ギターとバイオリンを伴にしてユーラシア大陸からヨーロッパを渡り歩く。
どんな暮らしだったのだろう?
日本にも山家衆というジプシーのような人々がいた。
哀愁を帯びた女性の歌声。
ギターとバイオリンのメロディ。
ビッキーとユーリも横浜のこの地で
イタリアンレストラン・エルスウェーニョの奥の部屋で
ジプシーたちのようにギターを弾いて
踊りを踊る自分の姿を夢想したのであった。
第七章おわり