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エル・スウェーニョ(横浜駅ジャズアンドイタリアンレストラン) マスターファンタジー ビッキーとユーリのユルメ探訪(第三部)2016.01.15

エル・スウェーニョ(横浜駅ジャズアンドイタリアンレストラン)
マスターファンタジー
ビッキーとユーリのユルメ探訪(第三部)
 
ビッキー、スキスキ、ワンワン。
ユーリ、スキスキ、ワンワン。
おや、なにか聞こえてくるぞ。
だんだん近づいて来る。
ビッキー、スキスキ、ワンワン。
ユーリ、スキスキ、ワンワン。
「カーリーだ、カーリーじゃないか。」
「ビッキー君、ユーリさんようこそ。これからはいっぱい行こうね。」
カーリーはしきりにしっぽをふってうれしそう。
「ちょっと待って。あそこの税関にケルベロスっていういやな番犬がいてあんたたちを待ち構えているわ。
わたしがあいつを誘い出しているすきに通るのよ。いい。」
カーリーは走って行った。
「へーい、ケルベちゃん、わたしどう?
つかまえてみたい?こっちこっち。」
ケルベロスはハァハァよだれをたらしながら、一目散に走り出してカーリーを追いかける。
「不細工ちゃん。こっちよこっち。」
とカーリーは逃げる。
そのすきにビッキーとユーリは税関を通り抜け、道をどんどん進んでいった。
「カーリー、大丈夫かなぁ。」
「つかまったらたいへんだ。」
ビッキー、スキスキ、ワンワン。

ユーリ、スキスキ、ワンワン。
カーリーの声が後ろから近づいてきた。
「だいじょうぶだった?」
「あんなうすのろにつかまるもんですか。
さぁ三人で一緒に行きましょう。」
ビッキー、スキスキ、ワンワン。
ユーリ、スキスキ、ワンワン。
カーリー、スキスキ。
三人は歌いながら山道を登っていく。
どんどん歩いてゆく。
セミが鳴きだした。
夏が来た。
蝉時雨だ。
どんどん大きくなる。
どんどん森の中を登ってゆく。
森が開け、小さな小屋があった。
白いおじさんがいた。キツネもいる。
「やぁ、ビッキー君、ユーリちゃん、カーリーも、ようこそ来てくれた。」
おじさんは笑顔で向かえてくれた。
キツネはカーリーの前で恥ずかしくてもじもじしている。
「遠い旅だったね。しばらくゆっくりするがいい。」
静かな森の小屋はがぜんにぎやかになった。
おじさんもこれまでの一人の暮らしで、
ほとんど食べず、何もしなかったけれど、
みんなのためにどんどん働きだした。
山へ柴刈りに行く、まき割りをする。
燃料にするのだ。
キツネの奥さんが川で洗濯をしてくれる。
里の人々がお米やもちや小麦粉を届けてくれる。
キツネや猿たちが山の木の実をとってきてくれる。
ビワの実もいっぱい、山桃の実もいっぱい。
山イチゴもある。
これからは山ぶどうもたくさんできる。
キノコもこれからどんどんできる。
イノシシが山イモを掘ってもってきてくれる。
大きくて太い。
一メートルはある。
ニワトリもどんどん卵を生む。
そして鹿やイノシシが
「私たちの体の肉をビッキー君とユーリちゃんに食べてもらってください。」
と身を捧げに来る。
魚たちも食べてもらいたくて川をどんどんのぼってくる。
おじさんは
「ありがたいことじゃが、
いまのところ十分まにあっておる。
身を大切にして生きるがいい。」
といって彼らの喜捨をなかなか受け取らない。
おじさんはビッキーとユーリのためにご飯を炊いてくれる。
まず、お米を小屋の裏の谷川でよく洗う。
清らかなほとばしる水だ。
洗ったらしばらく水につけて、お米と水をあそばせておく。
石で囲んだ炉で、柴に火をつける。
まきをくべて火はどんどん大きくなる。
お米と水を飯ごうに入れて、火の上に棒を渡し、まん中にぶら下げる。
はじめから強火だ。
まきの火は強い。
すぐに飯ごうからブクブクと泡が吹き出し、白い蒸気が立ち昇る。
飯ごうの中でお米は踊り狂ってる。
お米は清らかな水と香り高く強く燃えている火に出会って、
生命の最高の時を踊りながら燃焼しているのだ。
水気がなくなるころ、飯ごうを火から遠ざけ、柔らかい火の上でゆっくりと蒸す。
十分蒸したら、飯ごうを逆さまにして、石の上にバンと置く。
底がくっつかないようにするためだ。
炊きあがったご飯は下がすこしこげて上はお米の一つぶ一つぶが形よく立っている。
それを木の椀についでまん中をくぼませる。
にわとりがさっき産んだまだ暖かい卵を割って、
まん中に入れる。おしょうゆをすこしたらす。
おはしでまぜていただきまーす。
「おいしい…。」
ユーリもビッキーもことばがでない。
バクバク食べる。
大好きなごはん。
次の日はイノシシ君が大きな山イモを掘ってきてくれた。
土の中を一メートル以上掘るのだ。
太い山イモの皮をむいて、切り、大きなすり鉢の中ですりこぎでゴリゴリ摺る。
キツネくんの仕事だ。
グングン摺る。
だんだんねばねばになる。
少しだし汁を加える。
なめらかに摺ってゆく。
そしてまた炊きたてのごはんにすった山イモのトロロをかけて、おしょうゆをすこしたらす。
おはしでまぜていただきます。
「おいしい…。」
ユーリもビッキーもバクバク食べる。
食べ盛り、育ち盛りだ。

秋になった。
コオロギやスズムシが鳴いている。
山は木の実やキノコでいっぱい。
猿君がキノコをどっさり持ってくる。
マツタケ、シイタケ、エノキダケ…とれたてだ。
おじさんは飯ごうの中へキノコをちぎって入れ、
おしょうゆをすこしたらして火にかける。
おいしそうなキノコの香りが広がる。
炊けました。
お椀についで、おはしでいただきます。
「おいしいいい…。」
キノコの炊き込みごはんだ。
ユーリもビッキーもパクパク食べる。
 
冬になった。
あたりは雪でまっ白。
部屋のいろりで火がパチパチ燃えている。
暖かい。
木をどんどん燃やす。
木はいくらでもある。
ガス代も電気代もいらない。
水もいくらでもある。
水道局も来ない。
電話もない、テレビもない、ケイタイもない。
いろりの火の上に大きな鍋をつるして
秋のうちにとっておいた木の実を煮る。
コトコト、コトコト、何日も煮込んでやわらかく煮込む。
今日は栗の実を煮込んで、お米と一緒に日にかける。
炊けました。
お椀についでおはしでいただきます。
「おいしい…。」
栗ごはんだ。
ユーリもビッキーもバクバク食べる。
二人とも元気で食べて遊んで眠る。
カゼもひかない。
深い雪を踏みわけて、一人のおじさんが訪ねてきた。
「ごめんください。老師はおいでですか。」
「これはこれは孔子殿、はるばる雪の中を。さあさあ、おあがりください。」
正座していろりを囲み暖かいお米を飲みながらみんなでお客さんをむかえた。
「老師、今日私が訪ねてまいりましたのは、老師の教えをいただきたいと考えてのことです。」
「あなたほどのお人に教えることがあるとは思えんが。」
「私は人の世の中にあって、礼の道、孝行の道、徳の道を説き、
人々の行動の規範の道を説いてまいりました。
世は乱れております。戦国の世が続いております。
やっと秦の成という若者が力をつけて、勢力を伸ばしてきております。
私は世のため、人のために必要と考えて、
道徳の道しるべとして、役にたってきていると思われます。
しかしながら、私は何か空虚を常に感じているのです。
本音の自分のことばなのかと。」
「孔子殿、あなたのおっしゃることはよくわかります。
あなたが空虚と名ざすものの正体は
ことばの網でも教えの網でもとらえることのできない私たち人間の自然の姿、本質の姿なのです。
それをとらえようと人は頭を使い、考え、学問をし、知識を得、
ありとあらゆる方法でこころみます。
それは人間の知。
文明としてどんどん進んでいきます。
しかしながら、自然の姿ははるかむこうにあるのです。」
ビッキーは静かに二人の会話を聞いている。
ユーリはよくわからなくて、ケーキのことを考えている。
カーリーは感嘆して心がふるえる。
キツネはチンプンカンプンだ。
しばらくおじさんと孔子のおじさんはそのような会話をかわして意見を語りあって過ごした。
そして孔子のおじさんは
「今日はたいへんにありがたいことばをいただき感謝申し上げます。」
と、雪の道を下っていった。
静かな白い冬がすぎてゆく。
梅の花が咲いてもうすぐ春という予感の頃。
若い大きな男の人が訪れてきた。
「ごめんください。老師はおいでですか。」
「おぉ、これは荘君ではないか、よく来てくれた。」
正座していろりを囲み暖かいお茶を飲みながら、
みんなで荘君をむかえた。
「老師、今日、ここに私が来たのは、老師の教えをいただきたいとの考えからです。
かつて教えをいただいていた日々の続きをぜひお願いしたくてのことです。」
「おまえもあの頃からずいぶん成長した。」
「ありがとうございます。
老師、今世の世の中は乱れに乱れております。
戦いの世が続いております。
周が滅びて諸公が乱立し戦っております。
やっと成という若き勇者が頭角を現してきたところです。
人の心も乱れ、それをなんとか人間らしい心に導こうと孔子殿をはじめ諸子百家と呼ばれる人々が諸子百家人の道を説き、
規範をつくり導いております。
私も志を立て、世のため人のためにこの身を尽くすつもりでおります。
しかしながら、
どのようなことばで
どのような方法で、
人を導けばよいのか、
どうすれば正しい人の道を説けるのか。
それを老師にお教えねがいたいのです。」
「荘。おまえの志はりっぱじゃ。
その志さえゆるぎないものであればよい。
あとはおまえ自身が持っている自分の源泉。
それは大宇宙とつながっておる。
大宇宙の真理。
大自然の真理をおまえ自身の言葉で伝えよ。」
 
ビッキーは静かに聞いている。
ユーリはよくわからなくてチョコレートのことを考えている。
カーリーは感嘆して涙ぐんでいる。
キツネはチンプンカンプンだ。
しばらくおじさんと荘君は
そのような会話をかわしながら意見を語りあって時を過ごした。
そして荘君は
「今日はたいへんありがたい教えをいただき感謝申し上げます。」
と梅の咲く道を下っていった。
春が来る。
花が咲く。
ビッキーとユーリとカーリーもずいぶん長いことおじさんのところにいた。
そろそろ出かける時だ。
「おまえたちの旅はまだまだ続く。あの山の向こうを下ったところに良寛君の家があるから訪ねるといい。」
といって二人を送り出した。
さようなら、ありがとう。
さようなら、おじさん。
元気でね。キツネ君。
 
ビッキーとユーリのユルメ探訪 第三章 おわり

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