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エル・スウェーニョ(横浜駅ジャズ&イタリアンレストラン)マスター小説 第九話 春の歌2015.12.28

マスター小説 第九話 春のうた
 
ハーイ、おはよう!ぼくビッキー。
今、長い眠りから覚めたとこ。
まだ頭はボーとして、体も動かなく、目もかすんで見えない。
眠っている間のことは全く覚えていない。
でも深い眠りの底に遠い記憶があって、おぼろげな夢のように映し出される水の中から初めて顔を出した瞬間だ。
遠い遠い昔のことだ。
命というものが水の中で生きていて、ぼくたちの祖先が魚として世界中の海を泳ぎ回って永い時が過っていた。
水の上に新世界があることを想像して、顔を出したのだ。
驚くべき行為。
驚くべき世界。
まさに新世界。
その瞬間のことが、今、よみがえる。
だんだん頭もはっきりしてきた。
目も見せるようになってきた。
ぼくは池の前にたたずんでいる。
梅の花が舞い散ってくる。
青い空。
真っ赤な椿の花。
池のほとりの黄色の美しい花はミモザの花かな。
太陽はあたたかいが風は冷たい。
だんだん思い出してきた。
ぼくたちはいつもこの時期、永い眠りから目覚めて池のほとりに来るのだ。
春。
生命がよみがえる。
春の歌
クククククク…
ケケケケケケケケ。
夜になった。
まあるいお月さんが輝いている。
星もまたたく。
思い出したぞ。
去年はぼくはここでひきこちゃんに会ったんだ。
美しい女性。
そして愛し合い、二人で卵をたくさん産んだんだ。
ああ、思い出しても幸せな気持ち。
今、ぼくはこうしてひきこちゃんが来るのも待っているんだ。
今年も会えるかな。
ひきこちゃんはまだ眠っているのかな。
おねぼうさんだからな。
はやくひきこちゃんに会いたいな。
ククククククク
ケケケケケケケケケ。
一日が過ぎた。
ぼくは一人で待っている。
おや、むこうから何か来るぞ。
ゲッ! ガマオだ。
いやなやつ。
なんてみにくいんだ・
「よう、ビッキー。また会ったな。」
「おまえなんかに会いたくない。」
「まあそういうん。去年はおまえにひきこちゃんをとられたが今回はそうはいかん。今年はひきこちゃんはおれがいただく。」
なにを言ってやがる。
このバカ。
バチバチバチバチ
ククククククク
ケケケケケケケケ
二日が過ぎた。
夜になった。
まんまるの月が輝く。
ふとかぐわしい香り
予感。
向こうで何かが動いた。
ひきこちゃんだ。
ぼくはガマオの顔に蹴りを入れて一目散に駆け出した。
やっぱりひきこちゃんだ。
目であいさつするなり、ぼくはひきこちゃんの背中から抱きついた。
うう、この感触。
柔らかい胸のふくらみ、すべすべした肌。
幸せ……
そこへガマオが追いかけてきて、ぼくの顔面に頭突きをくらわせた。
ウウ…
クラクラクラクラ
もう一発くらった。
クラクラクラクラ
不覚にもぼくは、ひきこちゃんからはなれてひっくりかえってしまった。
「ケケケケ、ざまあみろ」
ひきこちゃんが抱きつく。
「ビッキーだいじょうぶ?」
ひきこちゃんの心配そうな顔。
「うう、クソー」
ぼくは気をとりなおして、ガマオの脇腹へ頭突きをくらわす。
ガマオは蹴りで応酬する。
一発、二発、三発。
激しい攻防が続く。
クソゥなんてしつこい奴!
「ケケケケ、おれの勝ちだ。ケケケケケ」

ぼくはもう疲れ果てて、絶望的になってきた。
その時、一陣の風がザァーと吹いた。
そばのミモザの木が大きくそよいだ。
そしてその枯れ枝が落ちてきてガマオの頭を直撃した。
「ウワー痛え」
ガマオは気絶してひっくりかえった。
ミモザが味方してくれたぞ。
ぼくは再びひきこちゃんに抱きついた。
「ビッキー、あなたでよかった」
ひきこちゃんは言ってくれた。
うれしいいいいい。
やっとひきこちゃんと二人になれた。
ミモザの花が祝福してくれてるみたいだ。
恋の調べ。
ククククククク
ケケケケケケケケケ
夜も更けてきた。
二人でこうしていると悠久の時が過ぎていく。
ひきこちゃんとぼくはぴったりとくっついて水の中でひとつになってじっと待っている。
「ビッキー、もうすぐよ」
「うん」
満月が輝いている。
時が過ぎる。
「ビッキー、もうすぐ来るよ」
ひきこちゃんがささやく。
ドキドキドキドキ。
「ビッキー、出るよ出るよ!」
「ぼくも出る」
ギュッと抱き締める。
「ああ……」
「ううっ」
ひきこちゃんのお腹からズイズイと卵がとめどもなくあふれ出てくる。
同時にぼくもあらん限りの精子をふりそそぐ。
絶頂の瞬間。
恍惚の時。
生命の躍動。
いのちの燃える時。
ククククククククク
ケケケケケケケケ
 
(第九話 春のうた おわり)

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