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トスカーナピザ 横浜駅ジャズアンドイタリアンレストラン エルスウェーニョでのビッキーとユーリのグルメ探訪 36話2016.07.20

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トスカーナピザ 横浜駅ジャズアンドイタリアンレストラン エルスウェーニョでのビッキーとユーリのグルメ探訪 36話

 

 

今夜、ビッキーとユーリは横浜駅すぐ近くのイタリアンレストラン エルスウェーニョの奥のテーブルで
キャンティワインを飲みながらトスカーナピザを注文して焼きあがるのを待っている。
トスカーナピザが運ばれてきた。

じっくりと焼き上げた小麦粉の香ばしい香り。
ラグーソースとチーズの豊かな風味。
悠久の時を感じさせる深い味わい。
ビッキーもユーリも江野さんが書いたカメリーナの詩を思い出した。
パンの精、ピザの妖精カメリーナ。

 

 

第36話 終わり

 

 

 

 

マスターによる小説

 

カメリーナ

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カメリーナの生まれがいつなのか誰も知らない。

それは遠い昔。

それより もっと昔、

気の遠くなるような遠い過去の時のさて、

地球という惑星がかでき、水というものがその表面を冷やし

海と言うものができ永い永い時が過ぎ、

生命と言うものが生まれた。

二酸化炭素を取り込み、酸素を放出する有機生命体だ。

そして永い月日が経った。

植物と呼ばれる生命体が地球にあふれ、はびこると、

今度は酸素を取り込み、二酸化炭素放出する生命体が生まれた。

理由は地球を囲む大気が酸素ばかりになると植物が絶滅するからだ。

新しい生命体は酸素ばかりになると植物が絶滅するからだ。

新しい生命体は雌雄が明確に分離して、躍動的な移動力を備えていた。

環境に適応するためである。

長い年月が経った。

地球は陸も海も生命で溢れている。

陸は木や草が生い茂り昆虫類が飛び交い海は魚が泳ぎ回っている。

やがてビッキーの祖先が、水から顔を出し陸に上がる。ダーウィンによると動物は系統的進化をとげ哺乳類というものになる。

永い時間が経過した。

大陸のジャングルに群れてた猿の中から、1人の男が2本の足で立ち、サバンナを歩く。

手は自由で棒や石を持つ。

火を使うことを覚えた。

男は旅をし、黄金色に輝く草原を見た。

その実をとって皮をむく。

硬い実を噛み潰しながら唾液で柔らかくして火にあぶる。

香ばしい香りと、かつてない柔らかく美味な食べ物ができた。

カメリーナの誕生である。

男達の仲間や子孫たちは、その実を栽培し、畑を作り定住するようになる。
もはや獲物を追って大陸を移動する必要はなくなった。

ユーラシア大陸の東と西で村を統合して国というものをつくる男が現れた。
人類の文明というものが始まる。

マケドニアの羊飼いアレキサンダーグレイトは愛馬を駆ってギリシャを制圧し
軍を率いてペルシャを破り
東へ東へと進む。

アレキサンダーはこの時代のすべてのヨーロッパ人と同じく世界は陸でできていると信じていた。
陸はどこまでも続き、進み、そして知ることができると。
科学というものの根拠である。

母なる大地と言う。

ガイアと呼ぶ。

古代ギリシャ神話では世界はウラノス(夫)とガイア(大地)から成り立ち、

この2人の幾世代かの子孫がオリンポスの神々で、その兄弟、妻や愛人や子供たちが華やかに活躍する。

だがアポロンやヴィーナス、女神がどんなに人気でもガイアはガイアである。

厳然たる存在である。

人々は海はどんなに大きくても陸に囲まれた池であり、ガイアの子宮であると考えた。

アレキサンダーグレイトは地上の支配者で、この世の全てを得た男であるが、

最も愛したものは、名馬プセファロスとカメリーナであった。

カメリーナはアレキサンダーのおかげで、ユーラシア大陸に広がる。

東へ東へと進むアレキサンダーはヒマラヤにぶつかり、ここはウラノス(夫)とガイアの交わる場所、人間の立ち入ることのできない世界と悟って南へ進む。

インド大陸を制圧しインド洋にぶち当たったアレキサンダーは愕然とする。

「おお、ガイアよ。陸は永遠に続くのではなかったのですか?」

海が陸を囲むという事実を知った最初のヨーロッパ人である。

陸と、自分の限界を悟ったアレキサンダーグレイトはギリシャに帰り、ディオゲネスを訪ねる。

無一物無尽蔵の哲人である。

ディオゲネスの樽の前に立ち、アレキサンダーはこう言う。

「ディオゲネス先生、私はアレキサンダーグレイトです。地上のすべてを得た者です。何かお望みのものがあればおっしゃってください。」

ディオゲネスは答える。

「そうか。ではそこを立ち去ってくれ。お前のおかげで太陽の光が遮られるのでな。」

アレキサンダーは

「この人は天の王の太陽と親しく語らっているのだ。地上の王の私など及ぶものではない。」

と悟って立ち去る。

だが立ち去るときに樽のそばにカメリーナをそっと置いていった。

ディオゲネスは後で置かれていったカメリーナを見つけてゆっくりと食べて味わったことだろう。

希代の哲人といえども食べることなしでは生きてゆけないのだから。

カメリーナはもうその頃には人々にとってなくてはならない存在となっていた。

紀元元年の少し後、救世主イエスキリストが12人の使徒と共にした最後の晩餐のテーブルにもカメリーナはひっそりと置かれていた。

イエス・キリストはこう語る

「このワインは私の血だ。このカメリーナは私の肉だ」と

アッシジのサント・フランチェスコが貧しい農夫の差し出すパンを仲間たちと分かち合ったものもカメリーナであり、

フィレンツェを追われたダンテが

「他国のパンはなんと塩っぽいことか!」と嘆き、懐かしんだのもカメリーナである。

レオナルド・ダ・ヴィンチもミケランジェロもカメリーナを食べて育ちその才能を養った。

20世紀の半ばごろまで、カメリーナはイタリア中央部トスカーナの上女王であった。

宗教的色彩の色濃く残るこの地方の村々では、広場に共同焼釜(フォルノ)があり、

村人は週1度だけカメリーナを焼く。

日曜日の朝、村の主婦たちは各家庭に代々続くマーティア(パンの種)からこねた生地を大きく丸めナイフで印を入れて広場に集まる。

広場には直径5メートル高さ2メートルほどの石で積み上げられたドーム状の窯があり、その中に周囲に沿って薪が並べられている。

イエス・キリストへの祈りの言葉とともに、窯職人フォルテノの手によって火が入れられて薪が燃え盛る。

1時間ほどして石が熱く白く変色した頃、炉床にパンの生地を並べる。

この炉床をフォカッチャという。薪は熾火や炭火の状態で、数時間に渡ってパン生地と熱く交換する。

村人は主婦の常で炉端会議に花が咲く。

昼頃焼き上がったカメリーナは枕ほど大きい。主婦たちはそれを持ち帰り、各家のイエス・キリストの祭壇にお供えする。

その日は断食だ。

カメリーナをイエス・キリストに捧げ、イエス・キリストの命を吹き込んでもらうのだ。

月曜日のカメリーナはしっとりとやわらかく無上の美味しさだ。

人々は手作りの生ハムや煮豆とともにいただく。

火曜日も柔らかくおいしい。ポルチーニのパスタとカルチョーフィが同伴する。

水曜日にはカメリーナの表面が少し硬くなる。人々はそれをスライスしてトーストし、自家製の生ハムやチーズを乗せていただく。ブルスケッタと言う。

産業革命、エネルギー革命の波が世界を覆い始め、

この地に電気やガスなどが普及し始める頃、そしてイタリア全土をあげての反対運動にも関わらず

ローマにマクドナルドの1号店ができてのち、

カメリーナはその女王の地位を追われることになる。

そして今、

カメリーナは私のそばにいる。

25年連れ添っている。

初めて出会った瞬間心奪われ、

ずっと一緒だ。

片時も離さない。

毎日真っ白のカメリーナを指で優しくなでる。

湿り気を与えて手のひらで柔らかくこねる。

だんだんと力を加え強く打ち付ける。

カメリーナは次第に熱を帯びてくる。

カメリーナに必要なものは

清冽でほとばしる水。

ゆったりとした暖かい時間。

そして香り高く燃え盛る火。

私に、カメリーナに命を吹き込むことができるだろうか?

この美しき自然の賜物に栄光あれ。

 

 

end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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